第8話
俺とシフォンはあのあと、騒ぎを聞きつけた生徒らに標的にされないよう、中庭から別の場所へと移動して話をすることになった。
校舎の二階へと続く階段の横にある窪みだ。狭くて居心地は悪いが、ここなら目立たないし岡嶋たちは壊滅状態だしで、しばらくは見つかる心配もなさそうだ。
「――と、こういうわけなのです……」
「なるほど……」
シフォンによると、彼女はコヌヌ村という異世界の小さな村で暮らしていて、そこの屋敷で使用人兼用心棒をしていたんだとか。道理で強いわけだ。
それが自室で就寝しようとしたところ、ここに飛ばされてきたらしい。何かの間違いで獲得しちゃった格好なんだろうか。
ただ、確かに狐色のホウキ以外タッチした覚えはないので奇妙な話だ。ホウキとシフォンは共通点があるし、もしかしたら【飛躍】スキルが関係してるのかもしれないが、まだ断定はできない。
「ただ、そうなる予感はありました……」
「えっ? そうなる予感だって?」
シフォンが気になることを言い出した。
「はい。実は私、奇妙な貼り紙を村の公園で見かけたのです。それは、『異空間で主人を守るお仕事をしてみませんか』と書かれた貼り紙でして、一体どんなところへ行くのかと興味を持っていました。多分、ここがそうだと思うのです」
「なるほど……」
ってことは、時空の番人がそのときに備えて募集してたんだろうか。いずれは俺たちに従魔を選択させるときのために。
ただ、今回選ぶのは武器だし、彼女が募集に応じてない以上、間違ってホウキみたいに紛れ込むこともないんだからここにいる理由にはならない。それよりは【飛躍】スキルが影響していると考えたほうがよさそうだ。
「ところで、あなた様のお名前はなんというのです?」
「あ、言ってなかったな。俺の名前は透っていうんだ」
「みゃあ、トール様というのですね。覚え――ふ、ふわあ……こ、こんっ!?」
シフォンが笑顔を向けてきたが、欠伸したことが恥ずかしかったのか顔を赤くした。
「あははっ。寝るところだったんだししょうがないよ。もう休んだら?」
「え、で、でも、それだとトール様が危ない目に遭うのでは……」
「襲ってきたやつらは君が追い払ってくれたんだし大丈夫」
「はい……それでは、遠慮なくっ」
シフォンはその場で寝転がってしまった。こんなところで休ませるのはちょっとな……って、そうだ。俺はスマホで彼女のアイコンをタッチしてみる。すると、忽然と消えるのがわかった。
ってことはコヌヌ村に戻ったんだろうか? またタッチすれば呼び出せると思うが、しばらくは起こさないようにしておこう。さて……俺も眠くなってきたし、ここで寝るかな――
「――浦間透、やっぱりここにいたのね」
「はっ……!?」
ちょうど横になったとき、突如として長剣を手にした一人の少女――平野迅華――が現れたので俺は飛び起きることになった。
「おいおい、誰かと思ったらお前か。もう具合は大丈夫なのか?」
「あたしのことならご覧の通りピンピンしてるし、こうして武器も手に入れたわ!」
ドヤ顔でロングソードを見せつけてくる平野。
「そうか……てか、なんで俺がここにいるってわかったんだ?」
「だって、いかにもいじめられっ子のあんたがいそうな場所だもの。わかるに決まってるでしょ!」
「……それで、いじめられっ子の俺に何か用事でもあるのか?」
「おおありよ! あんた、あのときあたしに何かやったでしょ」
「ん? 一角獣と戦ったときか。別に何かしたつもりはないが……」
「しらばっくれても無駄よ! あたしにはあんなことができるような力なんてないし、あんたがスキルで何かやったに違いないわ。多分、性格とかも含めて色々と変化させる能力じゃないかって思うの。いじめられっ子のくせにあたしを庇うし……」
「なるほど……」
この子、結構勘が鋭いタイプのようだな。自分の性格は変わってないが、確かに【飛躍】はそんな感じの変化させる効果なんじゃないかと俺も睨んでいる。
「それでね、あたし、あんたにこうしてお礼を言いに来てあげたの。助けてくれてありがと。この借りは必ず返すわ!」
「…………」
彼女は恥ずかしそうにそう言ったかと思うと、あっという間に走り去ってしまった。やっぱりちょっと変わった子だな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます