第7話
『今回選べるのは武器だが、形状が似ているゆえに種類の違うものも紛れ込んでいるかもしれない。選択できる時間は短いが、そこに注意して選んでほしい』
時空の番人の声がしたあと、俺は茂みの中でスマホを凝視していたら、すぐに例の選択画面に入るのがわかった。
てか、選ぼうとしたものが物凄いスピードで消えていくのがわかる。早い者勝ちみたいなもんだから仕方ないとはいえ、これほど速攻でなくなるのを見ると、注意して選べっていうほうが無理があるな……。
ただ、適当に選ぶのだけは嫌なので、俺はより良いものを選択しようと食い入るように画面を見つめた。
あっ……よし、これだと思ったものを獲得しようとしたら、それが寸前で消えて横にある長細い何かをタッチしてしまった。これは、まさか――
「――なっ……」
恐る恐る、何かと思って画面を見たら『狐色のホウキを獲得しました』と表示されていた。
おいおい……見事に武器とは種類の違うものを選んでしまった格好だ。俺のバカ野郎。この選択が今後の命運を分けるかもしれないってのに……ん?
ホウキのアイコンの横に、狐耳の少女のアイコンがあるわけだが、これはなんだ? こんなものを獲得した覚えはないが、気付かないうちにいつの間にか手に入れてたんだろうか。
「よっしゃー。強そうな武器を手に入れたぜえっ。俺の雄姿はどうだ、田中、佐藤!」
「「さすが岡嶋さんっ」」
「…………」
野太い歓声がしたので様子を覗き見ると、岡嶋が巨大な斧を嬉々とした表情で振り回していた。あれは、ツーハンドアックスか。てっきり【武闘家】みたいなスキルを持ってるんじゃないかと思ってたが、斧を選んだことから察するに【戦士】っぽい。
しかし、よくあんな短時間で目当ての得物をゲットできたな――
「――まあよくやってくれたぜ、佐藤。主人の俺のために最高の武器を選んだんだから、誇りに思うんだぞっ!」
「ど、どもっ。へへっ……」
「…………」
なるほど。斧のほかに武器を持ってる様子はないし、三人で一つのものを選んだ格好だったか。
「それに比べ、田中ぁ……お前、何も選べませんでしたあって、それで済むと思ってんのか、こんの無能があっ!」
「す、すみませんでしたあっ! あひいぃっ!」
田中がひたすら蹴られてて可哀想だ。何も選べなかったって意味では岡嶋も同じなのに……って、そんなことを内心突っ込んでる場合じゃなかった。俺は藁にも縋る思いで、例の見慣れないアイコンをタッチしてみる。
「こんっ……?」
「あっ……」
俺の隣から変わった鳴き声がすると思ったら、メイド服を着た狐耳の少女がきょとんとした顔で座り込んでいた。
「あ、あのう……ここは一体、どこなのでしょう?」
「き、君は……?」
「私、シフォンという名前でして、コヌヌ村の――」
「――あ、申し訳ないが、話はあとでもいいかな? 今は会話してる場合じゃないんだ」
「……というと、あなた様は今、誰かに襲われているのですか?」
「よくわかったな。まあそんなところだ」
「武器はあります?」
「武器ってほどじゃないが、これで戦うつもりだ」
俺はホウキのアイコンをタッチし、手元に出現させる。
「こんっ! それで充分ですっ。私に貸してもらえませんか?」
「え?」
シフォンと名乗った狐耳の少女に強引にホウキを奪われる。凄い力だ。
「ここであなた様と出会ったのも何かの縁でしょうし、私がお助けいたします――」
「――しっ。やつらが近付いてくる……」
「お、おい、今こっちから声が聞こえてきたよな?」
「「う、うん」」
「浦間に違いねえ。見てろ……初めての殺人で箔をつけてやる。俺は平野さんをどんなことをしてでも守る戦士になってやるんだぁ……」
物騒な台詞を吐く岡嶋を筆頭に三人組が接近してくる。もう、どこにも逃げ場はない。素手であっても戦うのみだ。場合によっては手を汚すことも考えたほうがいいだろう……。
「では、参りますっ」
「え、ちょっ……」
ギリギリまで引き付けてから奇襲しようと画策してたら、大胆にもシフォンがやつらの前に飛び出してしまった。
「「「き、狐耳の亜人っ!?」」」
「ただの亜人だと思ったら大間違いですよっ!」
やつらは面食らった様子だったものの、まもなく岡嶋が恐怖を振り払うかのように目をカッと見開いた。
「お、お前ら、落ち着けっ! こいつの正体はおそらく狐のモンスターで、巧妙に人間に化けてやがるんだ! 俺が今からぶった切って狐鍋にして、それを証明してやるってんだよおおおぉっ!」
「みゃっ、上等です! こんこんこんっ!」
ダメだ。相手は三人だし、俺も参加しなきゃまずいと思って飛び出そうとしたとき、信じられないものを目撃することになった。
岡嶋が斧を振り上げた隙にシフォンが懐に飛び込んだかと思うと、やつの頭上にホウキをこれでもかと振り下ろしてみせたのだ。尋常じゃない速度だったぞ、今の動きは……。
「…………」
岡嶋は斧を振り上げたまま白目を剥いていて身動き一つせず、立った状態で失神しているようだった。
「たっ……助けてくれええぇぇっ!」
「い、嫌、だ……」
佐藤は悲鳴を上げながら一目散に逃げ出し、田中は座り込んだまま項垂れて気絶するのがわかった。
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