第6話
「――ふう……」
教室を出た俺は恐ろしいほどの開放感を手にしていて、自分がいかに抑圧された環境にいたのかがよくわかった。
それだけこの体が彼らに痛みを覚えさせられてるからだろうか。
あのまま教室に残っていたらいじめっ子が手を出してきた可能性もあるし、俺が反撃することで修羅場になっていたかもしれない。
いじめっ子たちは中身が違う俺から思わぬ反撃を食らったものの、今までいじめていたことの経験、アドバンテージからか自分たちのペースを取り戻しつつあると感じた。
そんなときにこうして空気を読むのは凄く大事だ。なるべく殺人沙汰に発展するのは避けたいからな。問題は強力なモンスターにどう立ち向かうかだ。
それは最初に獲得した【飛躍】というスキルにかかっているといってもいいが、まだはっきりとどんな効果なのかわかってるわけじゃないからなんともいえない。
「…………」
とりあえず、教室の荒れた空気に関しては時間が解決してくれると信じてフラフラと歩く中、俺は気付いたことがあった。
漆黒の一角獣によってかなりの被害が出たようだが、学校内はそこまで混乱している感じじゃなかったんだ。みんな早くもこの環境に慣れてきたってことか。人間の耐性っていうのは侮れないな。
とはいえ、正直心身ともに疲れていて、リラックスできる場所が欲しいってことで探しているものの、中々いいところは見当たらなかった。本来なら自分の教室がそうあるべきなんだが。
そういう意味じゃ平野迅華のいる保健室は当然ダメだろうし、それなら美術室や音楽室はどうかと思って覗いてみるも、不良っぽい生徒たちがここぞとばかりたむろしている様子だった。
このままずっと歩き続けるってわけにもいかないしなあ、どうするか――
「――あっ……」
校舎一階の夕陽の射し込む通路を歩いていたとき、俺の居場所はここだと確信できるところを発見した。
それは中庭だ。結構広いのに人が全然いないのが意外に思えるが、グラウンドにモンスターが出現したことからもみんな外へ行くのは避けてるんじゃないか。
とはいえ、さすがにグラウンドは目立ってしまうので中庭くらいがちょうどいい。木や茂みがあって隠れることもできる上、綺麗な花壇やベンチもあるから至れり尽くせりだ。
ベンチに寝転がって晴天を見上げるも、膜のようなものが張ってるせいかあまり眩しく感じない。
安心したせいかお腹が空いてきたので鞄を開けてみると、弁当が入っていた。母親の手作りだろうか?
そういや、俺も昔作ってもらってたっけな。おふくろは体が弱かったから病院でしか会えないことも多くて、自分が14歳の頃に病気で亡くなったが。一度も弱音を吐いたことがなかったオヤジが、ずっと目頭を押さえてたのが印象的だった。
そんなほろ苦さを感じつつも、空腹には逆らえずあっという間に平らげてしまう。やばい。今度は瞼が重くなってきた。ダメだ、一切抗えないほどの強烈な眠気だ、これは……。
「――はっ……」
気付けば、俺は暗闇の中にいた。どうやら寝てしまっていたようだ。
起き上がり、灯りがついた校舎のほうへ向かおうとして足を止める。誰かこっちへ来ると思ったら、岡嶋とかいうガタイのいい生徒だった。しかも、知らないやつを二人連れている。そのうち、一人はスキルによるものか右手を光らせていた。
いかにもタイミングが悪いと思って俺は中庭へと戻り、茂みの中に隠れてそこから様子を窺うことに。
おいおい……岡嶋たちが中庭へ入ってきた。まさか、俺がここにいるってバレちゃってるのか? やがて、やつら少しずつ迫ってくるとともに話し声が聞こえてきた。
「おい、田中。本当に浦間はここにいるんだろうな!?」
岡嶋が眼鏡をかけた男子生徒の胸ぐらを掴む。
「え、えっと、僕のスキルだと浦間君はこの辺にいるって出たから、多分いると思うけど、正確な場所までは……」
「お、岡嶋さん、だったら中庭をしらみつぶしに探しましょうよ」
「よーし、佐藤、そうするか。もしいなかったら、お前らに俺の鉄拳を食らわせてやるからなあ」
「「そ、そんなぁ……」」
「…………」
なるほど。田中と佐藤っていう生徒は俺を探すために強制的に連れられてきた格好か。探索係が田中で、照明役が佐藤ってやつだな。立場的に田中っていう生徒が一番弱そうだが、おそらくその下にいるのが俺だったんだろう。
「浦間ぁ、待ってろよ……。いじめられっ子の底辺の分際で、みんなの前で恥をかかせやがったお礼に、この手でぶっ殺してやるからなあ……」
冷静に分析してる場合じゃなかった。岡嶋のやつがふざけた台詞を吐きやがったんだ。それくらいで殺すって、お前なあ――
『――まだ起きているか、学校の生徒たちよ。零時を過ぎたばかりだが、次元が開いたゆえ報告する』
時空の番人の声が脳内に響く。こんな状況ではあるものの、次は一体何を貰えるのか楽しみになってきた。
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