第4話
「「「「「うおおぉぉっ!」」」」」
やがて俺たちはグラウンドを見られるところまで到達したわけだが、それまで以上の熱気に包まれていた。
額に槍のような角を生やした黒い獣が暴れていたからだ。あれが侵入したっていうモンスターか。一角獣といえばユニコーンが有名だが、馬というよりも角のある黒豹みたいな感じだ。
「見ろよ、マジでモンスターじゃねえか。すげー!」
「あれ倒したら経験値どれくらいゲットできるかな?」
「よし、誰か試しに倒して来いよ!」
「ヤダー、超怖い!」
「お、勇者たちがキターッ!」
「「「「「わああぁっ!」」」」」
果敢にもモンスターに向かっていく生徒たちの姿があって、その場の盛り上がりは最高潮に達そうとしていたが、すぐに冷めることになった。
「「「「「ひえっ……」」」」」
モンスターの俊敏な動きにまったくついていけず、挑戦した生徒が次々と角で串刺しにされてしまったからだ。悪夢のような光景を前に、うずくまって吐き始める生徒もいた。
やはり無謀すぎたか。スキルを一つ貰った程度じゃこうなるのは目に見えてたしな。
「ひぃっ……」
平野迅華が、それを見て小さく悲鳴を漏らすとともに、俺の手を握る力が強くなるのがわかった。
「どうした、平野迅華。怖いか?」
「……こ、こ、怖くないわよ、あんなの……!」
「…………」
わかりやすいやつだ。これに懲りたなら、もう高見の見物をしようなんて思わないことだな……ん? こっちのほうを見上げた一角獣の双眸が怪しく光るのがわかった。ま、まさか――
「――グルルルルウゥッ!」
咆哮とともに窓ガラスが割れたかと思うと、グラウンドにいた漆黒のケダモノが自分らのいる廊下に鎮座する格好となった。あそこからこんなところまで跳び上がってきたというのか。なんて跳躍力だ……。
「「「「「う……うわあああぁぁぁっ!」」」」」
俺たちは一斉にそこから逃げ始めたわけだが、振り返ると生徒たちが何人も串刺しにされていて、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。
「い、嫌っ、もう、ダメ、歩け、ない……」
「お、おい、しっかりしろ!」
平野がうずくまってガタガタと震え出したのでなんとか励まして立たせようとするも、恐怖のあまりか足が竦んでしまってる。
俺一人だけ逃げるわけにもいかないので引き摺るようにして引っ張っていくが、まもなく血まみれのモンスターが俺たちに向かって歩み寄ってきた。
「ガルル……」
ダメだ……。これはもう、完全に狙いをこっちに絞っちゃってるな。やはり、高みの見物は死亡フラグだったか。
当然ではあるが、人間相手ならともかく俺はモンスターと戦ったことがない。
それでも、魔物とはいえ生き物であることに変わりはない。生物なら苦痛や恐怖をまったく感じないということはないはずだってことで、これでもかと殺気を浴びせてやる。
「グ……グググウッ……」
すると、警戒したのか一角獣の歩みが若干遅くなった。このまま無抵抗でやられるわけにはいかない。こうなった以上、死に物狂いでなんとかしてみせるつもりだ。
「平野迅華、そのモップを貸せ。お前だけでも逃げるんだ」
「え……」
「いいから早く――」
「――グルルルルルアァッ!」
「そんなのダメッ!」
「っ!?」
平野迅華が目の前に立ち塞がったため、俺は頼むから逃げてくれと念じつつその体を払いのけようとした直後だった。信じられないことが起きた。
彼女が狂ったように物凄い速度でモップを振り回し、モンスターを圧倒し始めたのだ。
「はあぁぁっ!」
あ、あの動きはなんだ……。腕が千切れるほど勢い任せに振り回してるように見えて、的確に命中させているのがわかる。どう考えても只者じゃないぞ。本当に彼女のスキルは【剣士】なのか……?
「――ギャンッ!」
一方的にボコられていた一角獣が遂に血を吐いて倒れ、そのまま動かなくなった。おいおい、一人で倒しちゃったのか……。
「「「「「わああぁぁっ!」」」」」
「うっ……」
「平野っ!」
周りからどよめきや歓声が上がる中、平野迅華が倒れかかったので俺は急いで駆け寄って体を支える。その際、彼女のポケットから零れ落ちたスマホのステータス画面を確認することに。
すると、スキル欄が【狂剣士】になっており、話が違うじゃないかと驚いているところで【剣士】になった。あれ、元に戻った?
「…………」
俺はそのとき、自分のスキル【飛躍】が影響してるんじゃないかと思ったが、それを確信するまでには至らなかった。まさかな……。
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