第3話
『――至急、お前たちに知らせなければならないことがある。グラウンドにてモンスターが出現した。ちなみに、人を殺しても経験値は入らないが、モンスターに関しては別だ。今後どうするかは自由だが、余程自信がある者以外は手を出さないほうが無難だろう』
時空の番人がそう宣言したことで周囲のざわめきは一層大きくなるとともに、席を立って教室から去っていく生徒の姿が目立ち始めた。
おそらく、モンスターと戦って経験値を得ようっていうよりはどんな見た目をしているのか等、興味本位で様子を見に行きたいっていう気持ちが強いんじゃないか。
ただ、見物するだけにしても危険がまったくないと断定できるわけじゃないし、番人の言う通り行かないほうが賢明だとは思う。俺自身、獲得したスキルの【飛躍】がどういう効果なのかもまだわかってないし、武器や防具だって持ってない丸腰の状態なわけだからな。
「ちょっと、浦間透」
「…………」
「ねえ、聞いてるの?」
「…………」
「とーおーるうぅぅっ!」
「ぬぁっ……!? な、何すんだよ!」
耳元で名前を叫ばれて、俺は驚きと怒りのあまり立ち上がった。またあの子だ。モップを片手に、いかにも意地の悪そうな笑みを向けてきた。
「お前か……」
「あたしの名前はお前じゃなくて、アイドルの平野迅華よ! いい加減覚えたら!?」
「ああ、そうだったな。で、アイドルの平野迅華さんが俺になんの用事だ?」
「あんたが一人でやたらと寂しそうにしてたから、こうして声をかけてあげたのよ。一緒にモンスターを見に行きましょ!」
「一緒にモンスターを見に行こうだって? 断る。花火じゃあるまいし――」
「――いいからっ!」
「え、ちょっ……」
平野迅華によって、強引に手を引っ張られる格好で歩き出してからまもなく、俺は足元に違和感を覚えて立ち止まった。
「何よ、どうかしたの?」
「上履きに何か入ってるみたいだ」
「え、まさか画鋲とかじゃないでしょうね……!?」
「…………」
俺がいじめられてたせいか勝手に決めつけられたが、どうもそんな感じじゃない。脱いで確かめてみると、一枚の紙切れが幾重にも折られた状態で入っていた。
なんだ、これ……。広げて中を見てみると、K・HとかS・Aとか、意味不明の英字が幾つも書かれていた。全部で10個だ。一体何を意味してるんだろうか。シンプルに考えれば名前のイニシャルだが。あと、最後に『僕は悪い心に染まりたくない』というメッセージが添えられていた。どういう意味だ……?
「何それ。浦間透」
「さあな、俺もよくわからない――って、人のものを勝手に覗くな!」
「ご、ごめん……って、あんたのものなのによくわからないってなんなの!?」
俺たちはお互いに怒りながらも手を繋いだ状態で廊下を進んでいく。いじめられっ子とアイドルの不思議なコンビなわけだが、周りからはどう見られてるんだろうか。
平野迅華はこういう強気な感じの子だから、俺は女子からもいじめの対象にされてるんだと見下されてるのかもしれない。実際もうやられてる可能性もあるが。
「てか、平野迅華」
「何よ、浦間透」
「モンスターを見に行くってことはな、それだけ危険に近付くってことだし、やめたほうがいいと思うんだが」
「何よ、説教臭いわね。近付くっていっても、遠巻きに姿を見るだけだから大丈夫よ。あたしには【剣士】っていうスキルもあるし、ただのモップだけどちゃんと武器も用意したのよ。ほんっと、臆病なんだから」
「…………」
果たして本当に大丈夫なんだろうか? 次元の歪みから侵入してきたモンスターが相手なら、尚更慎重に行動するべきだと思うんだが。
しかも、モンスターを見物したい生徒が多すぎるのか、廊下は混雑していて中々先に進めない。『早くそこをどけよ』、『いい加減ぶっ殺すぞ』等、これでもかと怒号が飛び交っている。
「「あっ……!」」
そんな不穏な空気の中、後ろから強引に割り込んできた生徒にぶつかって、平野が俺に抱き付く格好になってしまった。
「か……勘違いしないでよね!」
「わ、わかってるって」
俺たちはしばらく、絡み合った状態で視線を逸らし合うことになるのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます