第70話 何コレ? こんな事情聴取でいいのぉ!?
近衛騎士団団長はマイラから事情を聞くために、取調室の扉を開け、一歩踏み入れると、思わず二歩下がる。
「!?」
「?」
「……」
取調室内にいた副団長は、どのように対応すれば良いのかと、困惑した表情で団長に助けを求めるように視線を送っている。
団長も気を取り直し、取調室へ入るが、机の向こう側にいる人物に物言いたげな目を向けた後、ため息をつき、うつ向きがちになった顔に手を当てる。
「……この状況の説明を願いたい」
何事にも冷静で、一騎当千の強者と賞賛されている団長が、困惑を隠せずに言葉を絞り出す。
取調室内のイスに、なぜかラフな服装のフレーデリックが座っている。フレーデリックの膝の上に、マイラが申し訳無さそうに
「団長の顔が怖くて、マイラが話せなくなると困るから、安心してもらうために一緒にいる」
あっけらかんと話すフレーデリックの様子に、団長の眉間に深いシワが刻まれる。
「ならば、別々に座ってはどうだ?」
怒りを抑え、努めて穏やかに接するが……
「えー? イスが一脚しか無かったし、僕たちは気にしないよ?」
(私は気にするよー!? どうしてこうなるの!)
口を尖らせてフレーデリックが話すと、マイラをギュッと抱きしめた。緊張して無表情になっているマイラは、心のなかで叫ぶ。
(えっ? ちょっと待って! 抱きしめる必要って、ある!? 抱きしめるじゃなくて、締めてるよね?)
いきなり抱きしめられたマイラは
フレーデリックは絶対に離すものかと、抱きしめたまま団長に上目遣いで視線を向ける。
まるで団長を挑発しているようだ。
(何よコレ? このままの状態で
マイラは恥ずかしくて耐えきれずに、顔を両手で
(フレーデリック様が取調室まで送ってくださるとの申し出を、断ればよかったわ)
マイラは激しく後悔している。
「や、自分がもう一脚持って来ましょうかと、伺いましたら、殿下にいらないと即答されまして……」
副団長が横から口を挟む。フレーデリックと団長の間に挟まれて、福団長はいたたまれない思いで、二人の反応を見守る。
国家転覆罪で貴族派を一掃する計画を立てるために、何度も顔を合わせた。
フレーデリックは積極的に対策案を出し、議論を重ねてきた。
負傷者が出ることも無く、貴族派を一網打尽にし、解決した。
頼もしい青年になったと、感心していたのだが。
婚約者でもない令嬢に身体を密着させるなど、不躾な行動をとるフレーデリックに、団長は落胆を隠せず見下した視線を放つ。
目の前にいるフレーデリックはマイラには甘い雰囲気で接している。だが、マイラには悟られないように、団長たちを
気配を察し、
フレーデリックにとって、マイラ・カレンベルクは唯一無二の存在なのだろうと、団長は感じ取る。
「マイラ嬢、でっかいひっつき虫に引っ付かれて、
団長はマイラを真っすぐ見る。
「あのっ、この状態では、皆様にご迷惑では……フレーデリック様、私は大丈夫ですから、イスを持ってきてもらって、そちらに……」
「団長がこのままでもいいと言ったのに?」
マイラの顔を
潤む瞳に光が当たり、
「マイラ嬢?」
団長の声で我に返る。マイラは団長の正面を見るように身体の位置を変えようとしている。
フレーデリックがヒョイっとマイラを持ち上げ、団長と対面できるように座らせた。
「まずは自己紹介しよう。私は近衛騎士団団長でエギル・ベーランドルフだ」
「クロードアルト・カレンベルクの長女、マイラ・カレンベルクです」
「さて、随分と遅くなったが、攫われている間に、マイラ嬢は犯人からどのような扱いを受けたか、話してほしい」
団長に促されて、マイラは淡々としながら口を開く。
屋敷の敷地内にある花畑にいたら、突然鼻と口を塞がれた。気づいたら狩猟小屋にいて、後ろ手で
クレーメンスが小屋に現れ、犯人に金貨を渡した後、荷馬車にゆっくりと乗せてくれ、荷馬車が動き出す。
荷馬車の揺れで気分が悪くなると、すぐに荷馬車を停め、荷馬車から降ろしてくれて、休ませてくれた。
暫く休んで体調が戻ると、出発の準備を始めた頃に、フレーデリックが現れ、救出されたとマイラは語る。
「ふむ。不快になることは、されなかったと?」
「はい。攫われるのは初めてなので、比較出来ませんが、紳士的な振る舞いでした」
「そうですか。他に何か言いたいことはありますか?」
「いえ、別に……」
団長は前に視線を向けると、フレーデリックの腕の中で無表情なマイラと目が合う。
「マイラ嬢、ご協力ありがとうございました。聞き取りは終了しましたので、気をつけてお帰りください」
団長が会釈すると、フレーデリックが口を開く。
「やっと終わったか。なら、帰ろう」
マイラの返事を聞かず、フレーデリックは転移魔法でマイラの部屋に移動した。
目の前にいた二人の姿が消え、団長と副団長は驚きのあまり、息を呑んだ。
「まったく、驚かせよって。神出鬼没なのは、でかくなっても変わらないのだな。せめて挨拶してから帰れば、可愛げがあるのにな」
ため息をつき、イスを見る団長の眼差しは、幼いフレーデリックに向けていた頃と変わらない眼差しだった。
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