第67話 ご褒美なのか? それとも苦行なのか?
部屋に残されたフレーデリックはマイラが寝間着を放してくれるまで、ソファーでマイラを抱えたまま途方に暮れる。
(どうしてこうなった!? マイラの寝顔が見られるなんて、ご褒美なのか、はたまた苦行なのか……)
フレーデリックの心臓は相変わらず大きな音を刻んでいる。心音でマイラが目を覚ましてくれたらいいのにと、思いながらも別な思いがよぎる。
(初めて僕を必要としてくれた。甘え下手で、頼り方を知らないあなたが、こんなにも愛おしい)
眠るマイラのおでこに口づけを落とし、柔らかい眼差しで見つめる。
(……結婚したら、この寝顔を毎日見られるのか……)
ぼんやりした頭で思い浮かべると、頬に熱が帯び、我に返る。
(いやいやいや。そんなこと、今考えることじゃないし!)
勝手に妄想し、自ら否定するように頭を横に振る。
「ん……」
小さな声と共に身じろぎするマイラに、フレーデリックは驚いて身体が跳ねる。
閉じられた
マイラが握っていた寝間着を放した。フレーデリックは立ち上がり、ベッドへ向かう。
マイラにかけていたブランケットをはいで、ベッドに置き、マイラを寝かせてブランケットをかけた。
愛しい人の頬を撫でながら、小さな声で話しかける。
「じゃあね、ゆっくり休んで。おやすみ」
フレーデリックの手が頬から離れようとする刹那、手を掴まれた。
目を見開き、驚いた様子のフレーデリックを気にする素振りも見せずに、マイラは手を誘導し、頬にあてがう。
予期せぬ事態にフレーデリックは動揺するが、そんな素振りをみせずに冷静を装う。
「もう、遅い時間だ。きちんと睡眠を取らないと明日にひびくよ」
心臓が慌ただしく動き、息が切れそうになるが、おくびにも出さずに諭すように話しかける。
「一人にしないで……ひとりぼっちはもう、嫌なの」
眉を寄せて、
(おかしい、今のマイラは普段のマイラと違う。茉依とも雰囲気が違うな。酔っていると、性格が変わるのだろうか?)
「わかった。眠りにつくまで、そばにいるよ」
マイラはフレーデリックの手を両手で持ち、顔のそばに置くと、
小さな寝息が聞こえる。部屋に帰ろうと、両手で掴まれた手をほどいて……フレーデリックは焦る。
(ほっ、ほどけない! しっかり掴まれている。マイラぁ、もう十分そばにいただろう? 僕も部屋に帰って眠りたいよ)
大きくため息をつくと、うらめしげに視線をマイラに向ける。こうなったらベッドにもたれかかる体勢で寝るしかないと開き直り、ベッドに頭と右肩を預け、フレーデリックも寝ることにした。
「……ス、ヴァ……
(マイラの寝言? かみ……? なんのことだろう)
フレーデリックの意識が遠のいていく。
扉をノックする音が聞こえたような。あまり眠れなかったフレーデリックは目を開けることができない。
「フレーデリック様! 朝ですよ!」
トゲを含むカルラの声に、ガバっと身を起こす。見下ろすカルラの眼差しは、なぜここにいるのか? と伝わってくる。
「かっ、カルラ! 誤解しないでほしい。僕は部屋に帰るつもりだったんだ! これを見て」
険のある物言いで起こされ、勘違いされたと狼狽えながら右手を見てとアピールする。
フレーデリックの右手をマイラが両手でしっかりと掴んでいる。
「まぁ、いい
「早くマイラを起こしてくれないかなぁ?」
情けない表情でカルラに頼むフレーデリックの目の下にはクマができている。ほとんど寝ていないのだろうとカルラは察した。
目を細めたフレーデリックの頭に、後ろに倒した犬耳が見えたような気がした。
「マイラ様、朝ですよ。早く目を覚ましてください」
「ん……えぇ、もう朝なの?」
横向きから仰向けに寝返ると、激しい頭痛に見舞われた。あまりの痛さに顔の上から両手でおでこを押さえて寝返りをうつ。
「痛っ! つぅ、頭がガンガンするぅ〜、なにコレ?」
「大丈夫ですか? 二日酔いになってしまいましたね。まず、水を飲みましょう」
カルラは水差しから水を注ぎ、グラスを渡す。受け取ろうとして頭が揺れるだけで激痛が走る。
なんとかグラスを受け取り、水を飲んだマイラは酷い頭痛に頭を抱える。
「ちょっと無理。動けない」
「ベッドでゆっくりしてください。後で消化の良い食事と二日酔いに効く薬をお持ちしますね」
カルラに促され、フレーデリックも部屋を後にした。
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