第53話 真相究明とあしらわれたフレーデリック

「陛下、どうなさいましたか?」


 いきなり声を上げた国王に、戸惑いながら宰相は尋ねる。


ゲッツこやつの似顔絵が気になって仕方なかったんじゃが、ようやく分かったぞ。ほれ、あの娘に似ているんじゃ」

「……娘とは?」


 宰相は腑に落ちない様子で問いかける。


「あやつじゃ、名はなんといったかのぅ、魅了魔法の使い手に似ておらんか?」


 宰相はゲッツの似顔絵を受け取り、まじまじと見る。暫く見ていると、ゲッツの似顔絵にエルネスティーネの顔が重なる。


「おぉっ、確かにエルネスティーネ・メッゲンドルファーに似ていますね。多少、髪色が違いますが、同系色ですし、目の色が同じで血の繋がりを感じますな」


 エルネスティーネ・メッゲンドルファーはフォルクハルトや他の生徒、学校関係者や父兄にも魅了魔法をかけ、王太子妃の座を狙い、国を我が物にしようと企てた女生徒だ。


 灰色がかった赤紫色のローズドラジェの髪に、ライムグリーンの瞳を持つエルネスティーネと、ローズダストの髪とライムグリーンの瞳を持つゲッツは似ている。


「エルネスティーネはメッゲンドルファー家の養女だから、血の繋がりは無い。エルネスティーネの父親も誰か、調査を進めるとしよう」

「すぐに調査を依頼します」


 宰相は人を呼び、エルネスティーネの身辺調査を極秘に行うようにと依頼する。



 エルネスティーネの身辺調査を依頼して二週間後。

 エルネスティーネの身辺調査をしていた調査員から思わぬ事実がもたらされた。


 エルネスティーネが母親と暮らしていた家に、身なりの良い男が入って行くところを度々目撃されていた。


 同時に調査員はエルネスティーネの身辺を調査中に貴族派が頻繁にパーティーを催しているという情報をつかんだ。


 調査員は極秘でパーティーに潜入し、泥酔状態の貴族に話しかけると、調査員を貴族派の貴族と勘違いした泥酔貴族が口を滑らした。


 泥酔貴族から聞いた情報を書類にまとめ、エルネスティーネの家に出入りしていた男の特徴を記した書類と一緒に国王へ提出する。


 書類に目を通した国王の表情が豹変した。すぐさま宰相と近衛騎士団団長と王都騎士団団長が執務室に呼び出された。




 









 フレーデリックは執務室でまとめた書類とある領地の地図を手にしていた。

 ファーレンホルスト王国は王室の土地と貴族が持つ土地がある。土地を所有している貴族は領主となり、領地を運営している。


 農業や加工品を主力に領地を豊かにしたり、観光に力を入れたりと、領地によって様々だ。

 領地が栄えるか衰えるかは領主次第となる。

 

 だが、自然災害で領地がダメージを受けた場合、領主が領地を立て直すために、被害規模と工事の内容を書類にまとめ、財務庁に提出し、融資可能か財務大臣が判断する。


 フレーデリックは干ばつによる被害に苦しむチェルハ領地へ視察に赴き、領主のチェルハ子爵から話を聞く。


 程度の差はあるが、川が干上がることもあり、農作物は枯れ、家畜も育たないとチェルハ子爵は嘆く。


 川が干上がった年は税金などの収入が少ないので、領主をはじめ、領民も苦しい生活を強いられている。


 領民が飢えないように王室が支援金を負担し、近隣の領地から食料等が届けられるが、領民はなんとか生活している状態だ。


 解決策を思いついたフレーデリックは、土木作業を生業としている関係者に話を持ち込み、会議を重ねた。


 資料をまとめ、干ばつを回避する事業を財務庁からの融資で解決を試みるために、財務大臣の執務室に足を運ぶ。


 昨日、侍従クルトに財務大臣に封筒を届けてほしいと頼み、財務大臣の執務室に封筒を届けたクルトは、財務大臣が手紙に目を通した後にため息をついたのを見逃さなかった。


 財務大臣が封蝋印を押した封筒をクルトに渡しフレーデリックの元へ急ぐ。クルトから封筒を受け取り、手紙を読むフレーデリックの表情はかんばしくない。


(資料はまとめたし、大臣が乗り気になってくれるといいのだが)


 淡い期待を持ち、フレーデリックは財務大臣の執務室の扉をノックする。扉が開き、フレーデリックは大臣に対面する。


「忙しいなか、時間を開けてくれてありがとう。早速話を聞いてもらいたいのだが」

「立ち話もなんですから、こちらに」


 大臣に促されソファーに座ると、フレーデリックは資料を大臣に渡し、地図を広げた。


「雨量が少なく、干ばつで苦しむチェルハ子爵領地へ視察に行ったのだが、地面を掘り、川から水を引き、人工河川を作るのはどうだろうか?」


 フレーデリックは地図に指をあて、斜めに動かす。


「数ヶ所に井戸を掘り、領民の飲水を確保出来たらいいと思うが、大臣はどう思う?」


 地図に井戸を掘る場所だと示すように、指を乗せては離し、別な場所に指を乗せる。


「水路や井戸を掘るために、人員が必要になります。相当な費用がかかるでしょう。チェルハ子爵にさせればよいのでは?」


 大臣は腕を組み、難色を示す。


「チェルハ子爵も工事を望んでいるが、家畜も作物も育たず財政難でな。国が費用を出し、領地が潤ったら税を少し上げて、融資した金額を返してもらえばいいのでは? 国から出すのが難しいなら、僕が費用を出してもいい。長い目で見れば成功すると思うが」


 フレーデリックは食い下がるが、大臣は決められた予算をすでに振り分けており、突然案件を持ち込まれても応じられないのだ。


「……殿下、そろそろ私共も仕事がありますので」

「もう時間か」


 フレーデリックはテーブルに広がった資料を集め、立ち上がる。


「忙しいときに話を聞いてくれてありがとう」


 フレーデリックは執務室を後にした。



「積極的に領地の視察に行かれると聞いていましたが、困窮した領地を立て直そうと、動かれているのですね」


 秘書は感心したように呟く。財務大臣もフレーデリックが真剣に取り組んでいると知り、驚きを禁じ得ない。


「殿下は費用を出してもいいと仰ったが、殿下の資産はそんなにあるのか?」

「あれ? 大臣、知らないのですか? フレーデリック殿下は留学中に冒険者として活躍されていたのですよ」

「冒険者!?」


 大臣は初耳だったらしく、驚いて声が裏返る。秘書は話を続けた。


「確か、SSランクの冒険者でしたよ」

「最高ランクはSではなかったか?」


 秘書は手で眼鏡の位置を直す。

 

「殿下は竜殺しドラゴンスレイヤーなのでSSなんですよ。討伐したドラゴンがほぼ無傷だったので、破格の値段、大臣の年収三百倍以上の値がついたそうですよ」


 大臣は瞠目どうもくし、ぽかんと大きく口を開けた。

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