第52話 重要な手がかり
夕方、バザーに参加していた家族が帰ってきた。マイラも出迎えるために部屋から出て階段を降りると、ロジータが満面の笑顔でマイラに抱きついた。
「おかえりなさい。ロジータ、バザーは楽しかった?」
マイラが
「すごく楽しかったわ! バザーが始まってすぐ、たくさんの人が集まって来て、あっと言う間にクッキーが売り切れちゃったの! マイラのハンカチも、手にした人がきれいだって
バザーが楽しかったらしく、こんなに機嫌の良いロジータを見るのも初めてだ。
騒ぎを聞きつけボリスも顔を出す。父の姿を見つけたロジータは父に抱きつき、マイラに話した内容を話している。
夕食を食べ終え、部屋に戻るまでロジータは喋り続けた。
「あなたの刺繍が評判良くてね、交流のある夫人が購入出来ずに残念がっていたわ」
マイラは刺繍を褒められて、こそばゆい思いだ。母の話は続く。
「あなたの刺繍入りハンカチが欲しいと言うお客様が多かったの。ハンカチを委託販売してみてはどうかしら?」
好きな刺繍を刺して、売れたらお金が貰える。そのお金を孤児院に寄付をすれば、子どもたちの役に立つだろう。マイラは了承し、ハンカチを百枚取り寄せてもらうことにした。
フォルクハルトを始め、三人の取り調べが終わり、騎士団長と二人の取調官は供述した内容を共有するために、供述書を回し読む。
マイラを拐った者はゲッツと名乗った。やや灰色がかった赤系の髪、ローズダストにライムグリーンの瞳、二十八歳でスラム街で育ったという。
取調官が転移魔法をどこで習得したのか質問すると、ゲッツは鼻で笑った後、こう話したという。
貧しい暮らしのなか、病気の母を養うために食べ物を盗んだり、スリをしてその日を生き延びる生活をしていた。
ある日、スリがバレて男たちに追いかけられ、逃げた先は行き止まりだった。
男たちは刃物を持ち、ジリジリと間合いを詰めてきて、殺されると思った瞬間、別の場所に移動していて驚いたこと。
このことを母に話すと、自分には貴族の血が流れていると聞かされた。父親の名を聞いても教えてもらえず、母は間もなく息を引き取った。
それから、転移魔法を使いこなせるように、必死で練習し習得したのち、裏の世界で人攫いや運搬の仕事をしていたと。
「貴族の落し胤か……確かに魔力量は多いようだ。偶然とはいえ、転移魔法を発動させるとは……」
騎士団長は命の危機で転移魔法を発動させたゲッツに、驚きを隠せない。
「
「国にとって、大きな損失ですね」
取調官も驚き、残念がる。
「才はあっても犯罪者だ。この者の父親が誰か、知りたいな」
「では、捜査してみましょう」
取調官はゲッツの父親を特定するために捜査課に書類を送り、調査を依頼した。
三人の取り調べは連日行われ、フォルクハルトとクレーメンスの供述が一致するまで続けられた。
クレーメンスとゲッツの供述が一致するまで取り調べが行われているなか、ゲッツがポツリと呟いた。
「ガキの頃だったから、記憶が
「何だって?」
取調官は初めて聞く供述に、
「母親はお前の父親のことを、他に言ってなかったか? よく思い出せ」
「いンやぁ~、俺が覚えている限りでは、これくらいしか……あ、
思いがけない情報を入手し、ゲッツの父親捜しの重要な手ががりになるだろう。
連日行われた取り調べも三人の供述に問題なく繋がり、調書を国王と宰相に渡す。
受け取った国王と宰相は調書に目を通すうちに顔色が悪くなり、頭を抱えた。
「馬鹿げている。こんなことで国を揺るがす事件を起こしたと言うのか!!」
調書にはこう書き連ねられていた。
フォルクハルト・ファーレンホルストはマイラ・カレンベルクと結婚すれば王太子として復位されると思い、マイラ・カレンベルクを離宮まで連れてくるように、クレーメンス・アメルハウザーに命じる。
クレーメンス・アメルハウザーは命を受けたものの、マイラ・カレンベルクと接点が無く、離宮へ案内するために、裏の世界の者と接触、ゲッツを紹介され、マイラ・カレンベルクを手荒に扱わず連れてくるように契約する。報酬は金貨二十枚。
ゲッツはマイラ・カレンベルクの情報を得てカレンベルク領地に潜伏し、機会を伺い、マイラ・カレンベルクを転移魔法で攫い、狩猟小屋に監禁する。
クレーメンス・アメルハウザーにマイラ・カレンベルクの身柄を確保したと連絡し、クレーメンス・アメルハウザーが狩猟小屋に来るのを待ち、報酬と引き換えにマイラ・カレンベルクをクレーメンス・アメルハウザーに渡し、契約を終了した。
クレーメンス・アメルハウザーは冒険者三名を護衛として雇い、マイラ・カレンベルクを荷馬車に乗せ、王都へ戻ろうとするが、マイラ・カレンベルクが体調を崩し、森の中で休憩を取る。
マイラ・カレンベルクの体調が戻ったので、出発の準備をしている最中に突然現れた男に拘束される。男は冒険者と何か交渉しているようだった。
冒険者と話がついたらしく、マイラ・カレンベルクを連れ、自分は襟首を掴まれたと思ったら、カレンベルク邸の前におり、混乱した。
カレンベルク家の関係者に暴力を振るわれ、恫喝された。
以上が三人の供述だと書き綴られていた。
調書の中にはフォルクハルト、クレーメンス、ゲッツの似顔絵も入っていた。
国王はゲッツの似顔絵をしげしげと見つめる。何となく見たことがあるような、ないような。心に引っかかるものがこの男にある気がして……
似顔絵とにらめっこしていた国王の目が見開かれたと同時に声を上げた。
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