児童公園

「ちーくん! みっけ! ちーくん、かくれんぼ下手すぎだね。」


女の子がそう言って笑う。

その顔には見覚えがありそうで、なくて、今はもう呼ばれることのない懐かしい呼び方からも僕はこれが夢であることを理解する。


半分寝ていて、半分起きている。

そんな意識の中で僕は続きを見ようとして、覚醒しようとする自分を押し込む。


「ちーくん。泣かないで、ちーくんは強い子でしょ?」

「そうだよ、ちーくんなら大丈夫。」

「大丈夫だよ。」


「ぼく、大丈夫かな? 楽しいことあるかな?」


「あるに決まってるじゃん!」


かくれんぼからどうしてそうなったのか、夢の中で僕は突然泣き出し、周囲の子から励まされていた。


すると突然、耳の中に温かいものを感じて一気に目が覚めた。

起き抜けの重たい腕を目元に持っていくと、案の定現実の僕も泣いていた。涙は頬を伝い、耳の穴に侵入し、僕を現実に引き戻した。


太陽はまだ昇ったばかりに見えた。ゆっくりと枕元に置いているスマートフォンを確認すると時刻はまだ6:54を指していた。

僕の長い1日がまた始まった。


児童公園の近くに引っ越してきてはや2ヶ月。

最近よく子どもの頃の思い出を夢に見るのは、きっとこの事実と無関係ではないはずだ。


土日は朝早くから子どもたちが集まるが、平日は幸か不幸かそれは午後から始まる。

幼稚園、保育園が終わりとともに、子どもの声と保護者の声が聞こえるようになってくる。そこから約1時間ほど後、次は小学生が低学年から順々に授業を終えて集まってくる。

聞こえてくる様子は、毎日ほとんど変わらない。元気にじゃんけんをして、奇声を上げながら走り回る。たまに転んで、泣く子がいて、それを宥める子がいる。近くにいる親が下手に介入して、事が大きくなることも少なくはない。子どもには子どもの世界があるのになあ、と僕は部屋からこっそりそんな子どもたちに同情する。

土日は起きてすぐ、騒がしい声に包まれて朝を実感する。

ただ、平日の朝はとても静かだ。

誰一人として公園で大声を出すような人はいない。特に今日みたいな、雨の日は。


一度体を起こし、充電の少なくなっていたスマートフォンをコードと繋ぐ。

束の間、自分の1Kを見渡し何かをしようとするが、とめどなく降り頻る雨の音に全てのやる気を削がれた。僕はまたゆったりとベッドに仰向けになり、天井を見つめる。


子どもの頃はよく天井に揺らめく影を見て、世界を創造して遊んだ。残念なことに、今はもう何も思いつかないが、終わりのない睡魔がまた僕を夢の中に誘いに来てくれた。


「もーいいかい? まーだだよー」


そんなやりとりが耳の奥で聞こえる気がする。あまり走るのが得意ではなかった僕が、唯一好きだった公園での遊び。かくれんぼ。


あの頃は得意だったはずなのに、夢の中の僕はいつも1番に見つけられてしまう。

夢はやっぱり夢なのだろうか。

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