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今日も僕は、ベッドに転がって洗濯物を眺めている。蝉が鳴き、鳥が飛び交い、さらにその上を飛行機がある一定の時間を空けて高度を下げながら進んでいる。


僕の住む6畳の1Kは角部屋で、窓が2つある。太陽の攻撃を甘んじるしかない東向きのが1つと、夕日が少しだけ見える北に1つ。

東向きの窓のお向かいに、少し立て付けの悪い扉があってそれが部屋とキッチンを繋いでいる。無論今のこの部屋は暑すぎるため、この扉が扉としての役目を果たすことはない。常に開け放されていて、僕は空や洗濯機を眺めるのに飽きると首を反対に向けて、キッチンをぼーっと見る。

洗い物を溜め込まず、台拭きでシンク周りの水滴をきちんと拭きあげられたそこの空気はいつ見ても同じだ。僕は僕の几帳面さに安心する。


外にはもう洗濯物が干してあるにも関わらず、今日はまた洗濯機を回している。洗濯機はキッチンの向かい側にあって、ベッドからは見えない。が、その音はこの家から発せられるもののなかで確実に1番大きく、正確で、安定している。僕はそれらによって、眠りに誘われてしまいそうになるのを堪えて電線に止まったカラスと目を合わせようとする。

カラスは知能が高く、人間を覚えるという。きっと室内から僕という個体を識別して記憶するのは無理だろうけれど、どうかまたここにきて僕の相手をしてほしい、という思いを飛ばしていた。そんな僕を他所に、カラスがすぐ去っていってしまったのはきっと言うまでもない。


「ピー。ピー。」

洗濯機が洗濯の終わりを告げた。

僕は溶けたような、固まってしまったようなどちらにせよあまり使いものにならなくありつつある体を起こして、出来るだけ急いで洗濯機の中身をベランダに干した。


時間はもう15:00を過ぎている。

夏とはいえ、この時間から干してタオルケットが乾き切るとは思えない。まあ、仕方ないからと思いつつ数十分前の落胆が蘇ってくる。

朝から干していたタオルケットの無残な姿。風に煽られてベランダにできていた水溜りに浸かりきっていた、情けないタオルケットの姿を。


網戸が外れないように慎重に閉めて、またベッドに転がる。風が吹くたびに、付けられるだけ付けた洗濯バサミがタオルケットを水溜りから守っていた。それを確認し、安心した僕はゆっくりと眠りのなかへ落ちていった。


手に、ソーシャルメディアのアカウントを開設途中のまま画面の暗くなったスマートフォンを持って。

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