第1話 「霊能ヶ原」に到着した美亜
――どうしたの、梨々?そんな腑に落ちない顔をして。
......本当だって。そこはね、「誰もが霊能力者になれる」って、そこかしこで噂されてたんだから。
――まぁそんなに昔から噂されてたわけではないけどね。
あたしが初めて「
鍵宮のあたりにいた頃に、偶然出会った旅人仲間から聞いたの。
「あそこの山奥の道を進んだ先に、『霊能ヶ原』っていう場所があるらしいぜ。」
......って。
――そ、そ。鍵宮。案外ここからも近いんだよ?
まぁあたしだってそんな風の噂を信じるほど馬鹿じゃないからさ、一旦は思いとどまったの。でもその後も本当に色んなところで「霊能ヶ原」の話を聞いてさ。
「美亜ちゃん、『霊能ヶ原』知らないの?」
「『霊能ヶ原』って場所があるみたいなんですよ。お客さん知ってます?」
――ここまで言われたら、流石に好奇心が
......え?『
――――
とにかく、あたしは
気がついたらあたしは鍵宮に戻っていて、「霊能ヶ原」に繋がっていると噂されている山道のところまで来ていたの。
「......この先に、『霊能ヶ原』が......?」
ここまで来たならもう行くしかないよね?
......あたしは、少しも迷わずに山道を歩いた。
意外だったのは、山道はちゃんと舗装されてて、2車線分の幅もあって、おまけにガードレールまで付いていたんだよ。
今まで「秘境」なるところには何度か行ったことあるけど、大体そこに行くには舗装されてない悪路を進む必要があったからさ。
......それこそ今回みたいな、行くまでにちゃんとした道があるなんて初めてで......なんか違和感があったんだよね。
......今思えば、あのときに引き返しておけばよかったな、って......
......まぁそれはいいの。とにかくあたしは舗装された山道を......「霊能ヶ原」の入り口まで、大体2時間くらい歩いたの。
あ、歩き自体はそんなに辛くなかったよ。今までの旅で足腰は鍛えられてるから......
......え?『着くまでに何かあった?』って?うーん、特に何も起こらなかったけどね、あえて言えば......そうだ、トラックとすれ違ったんだ。
――荷台に大量の材木を乗せたトラックと。
ドライバーさん、こんな山道に一人のあたしを気にかけてくれたみたいでさ、わざわざ止まって声かけてくれたんだよ。
――――
「あのー......大丈夫ですか?」
「ん?あ、大丈夫です。あたしこれから『霊能ヶ原』に行くんで......」
「えっ!!?『霊能ヶ原』!!?や、やめた方がいいですよ......」
「そんな~。どうせ『出る』っていうんでしょう?」
「そ、そうですけど......あそこ、本当に出るんですよ?それに......」
「大丈夫ですって~!心配させてすみませんね、じゃあ!」
スタスタスタ......
「......行っちゃった......」
――――
――でもあの材木、どこで手に入れたんだろうね。道路の先には「霊能ヶ原」しかないはずだけれども......何か引っかからない?
......まぁそれはとにかくね、その後の山道では本当に何も起きずに、あたしは無事に「霊能ヶ原」に到着できたわけ。
......え?『どうして「霊能ヶ原」に到着したとわかったの?』って?
ふふふ、それはね......ちゃんとした入口があったんだよ。
この先、「霊能ヶ原」って書かれた看板がね......幅20m、長さ100mはありそうな巨大な橋のそばにあったの。
橋は、手すりから脚まで全部木でできていてさ......ヒノキのお風呂、想像してみて。あれが雰囲気をそのままに橋になった、そんな感じの橋ね。
橋の上にはだいたい20m間隔で両端に灯篭が置かれていてさ(今は昼だから点いていないんだけれども)。正直ね......美しかった。観光ガイドブックに載ってそうな、そんな感じ......
――でも、それっておかしくない?だってここ、相当な奥地なんだよ。橋が架かっていること自体が異常ともいえるくらい。そんな場所に「100mくらいの長さで」「木造の」「とても綺麗な」橋がかかっている......
――あたしね、旅人の「本能」って奴があるんだけども、もうビンビンに反応したね。ここ、相当ヤバいって......!!!
......え?橋?......ふふふ、もちろん渡ったよ。ここまで来てどうして渡らないことができるの?
――橋は地面から数十メートルは離れていたからさ、ちょっとだけ落ちるのが怖くて......橋の真ん中を、ゆっくりと歩いて渡ったの。
てち、てち......
最初の方は、風が吹く音くらいしか聞こえなくて。山奥にあたし一人......ちょっとだけ怖かったね......
てち、てち......
――でも、半分くらい歩いたら、何か別の音が聞こえてきてさ......
具体的に言うと、自転車のベルのような音が。
チリンチリン......って、うっすらとね。
あれは確かに自転車のベルだった。少なくとも自然に出るような音ではなかったね。
――「霊能ヶ原」には、人でも住んでいるのかな?
――――
「ん?人って......どういうこと?」
「あぁ、いいの、ただの独り言。気にしないで、梨々。」
「うん......」
「......続けるよ。」
――――
てち、てち......
そうして、橋は終わりに近づいてきたんだけれども......
橋の終わった先には、石畳の道があったの。
「まだ道があるのか......」
なんて、そんなことを思いながら橋を渡り終えたあたしは、そのまま石畳の上を歩き始めた、その時だよ!!!!!
(美亜、ガタンと音を立てながら立ち上がる!!!!!)
[[[[[ぞわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ]]]]]って!!!!!
急に!!!全身を貫くような「霊感」が!!!あたしに降りてきたんだよ!!!
何か、「人に非ざるもの」があたしの全身を取り巻くような感覚......
今まで感じたこともなかったけど、あれは間違いなく霊感だったよ......お墓に言ったときのあの何とも言えない空気、あれを限界まで強化したような、そんな感じだったもん......
......まぁそうだよね!ここ、「霊能ヶ原」だったよね!!!変な橋のせいですっかり忘れていたけど、「誰もが霊能力者になれる場所」だったよね、「霊能ヶ原」って!
――あたしはその瞬間我を忘れて......気が付いたら、橋を半分くらい戻っていたの。
驚いたよ。あたし、本能的にこの土地を拒否しているんだよ?
旅人を始めてから結構経つけど、こんなこと初めてだったね......怖かった。
――とにかく、「霊能ヶ原」の噂は嘘じゃなかったわけ。
「誰もが霊能力者になれる場所」......あたしは、とんでもない場所に足を踏み入れてしまったみたい......
――――
(ここまで言って、ようやく美亜は椅子に戻った。)
(「霊能ヶ原」......本当に謎だらけな場所だな......)
(......とにかく、美亜の話はまだ始まったばかりだ。)
(美亜は、再び語りだした......)
霊能ヶ原 Androidbone @FRICAKE_UNIT
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