霊能ヶ原

Androidbone

プロローグ -「旅人」という名の店

「――霊能ヶ原れいのうがはらって、知ってる?」


おもむろに、美亜みあが語りだした。


「......なに、また旅で起こったことの話?」


「そ、そ。」


ここは、小さな街角の路地裏にある小さな飲食店、「旅人」。


元・旅人である店長が、「旅人たちの憩いの場に」と、10年ほど前に立ち上げた店だ。


木造の店舗は何とも言えないあたたかい雰囲気に溢れており、結構評判は良い。


......立地が立地だから、旅人さん以外にあんまり客は来ないけど。


――――


「あんま長い話はやだよ......わたし、一応仕事中なんだし。」


「大丈夫大丈夫!すぐ終わるから!」


「......この間似たようなことを言って3時間私を拘束した人は、誰だっけ......?」


「ちょw、それは悪かったって......でも今回は本当に大丈夫だから!」


――当然、今、私とカウンター越しに話している彼女も旅人だ。


」......名字は知らない。


......砂漠に住んでいる人の服を極限まで可愛くしたような、そんな恰好をした女の子だ。


身長はそんなに高くなく天真爛漫、すなわちとてもかわいい。


でも見た感じ、私と同じくらいの年に見えるのだが......

どうして旅人をやっているのだろう。


――――


「......本当に本当?」


「本当だって~!この目が嘘をつく目に見えますか......?」


そんなかわいい顔でこっちを見ないで......


「......とても見える。」


「ガーン(悲しそうな顔)」


――まぁ、そんなこと私に知る権利はない。


というのも、ここのバイトの面接で、店長からあらかじめこう言われているから......


――――


『うん、合格だよ、長沼さん。でも......ここで働くに先立って、一つだけ言っておかなければいけないことがあるんだ。』


『......?』


。』


『......それは、......?』


『ここに来るお客さんって、大体が旅人なんだよ。だから過去に何があったのか、どうしても気になると思うんだけど......』


『......』


。ましてや、旅人なんて曰く付きの人々には......特に、ね。』


『......』


店長は、真顔だった。


後にも先にも、あんなに優しい店長が真顔になったのは、この一回きりだ。


......私は、それがどういう意味なのかを理解できないほど、馬鹿じゃない。


――――


......美亜は私の返答を待ちながら、レモネードをすすっている......


......もうタメ口で話せるような仲とはいえ、私と美亜の関係はまだ「店員とお客さん」に過ぎない......あんまり深く美亜について聞いては、いけないのだろう。


「......わかった、聞くよ。でも今回だけだからね?」


「ズゾ、ふふふ、梨々りり、ありがと♪」


――でも、美亜の方から言い出してきたのなら、話は別だ。


美亜とこの店で初めて会ってからもう半年は経つけど、彼女は、旅で起こったことに関する話を私にしてくるのだ。


ある時は砂漠のど真ん中に建てられている病院の話だったり......


ある時は怪しい組織に捕まってしまった話だったり......


......毎回、私の仕事を数時間にわたって妨害するほどに、みっちりと話してくれるのだ。


......これが結構面白い。(※個人の感想です。)


もちろん旅人界隈ではこの店は有名だから、旅で起こったことを店員に話してくる、そういったお客さんは珍しくないのだが、、しかも話をするなんて、美亜以外にはいない。


この店には美亜くらいの歳の女の子は私しかいないし、やっぱり安心なのかな......?


――――


「で、『霊能ヶ原』って言ったよね......?」


「そうそう、『霊能ヶ原』。不思議な名前だと思わない?」


「うん、まぁ......特に『霊能』の部分が......」


「そうだよね......でもね、ちゃんと由来があるんだよ。」


「......?」


「そこはね――。」


そう言って、美亜は語りだした――

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