呼ばれている気がする
「う…」
頭が割れそうなほどに痛い。
思わず
「実! 起きたのか!?」
聞こえてきたのは、拓也の声だ。
「大丈夫か?」
「うん…。頭が痛いだけで、体は平気……」
そう答える自分の声が、思いの
拓也がほっとするのが気配で分かった。
頭痛が収まるのを待ち、実はゆっくりと目を開く。
騒ぎを聞きつけてきたのだろうか。
拓也の隣には、明るい内は領主の仕事に忙しい尚希もいた。
「二人とも、ごめん。もう大丈夫。」
言葉ではそう言ったものの、起き上がるのは厳しそうだ。
「確かに、魔力が暴走してるわけではないな。あれだけ放出した後なら、その線は薄いとは思ってたけど……」
実の手を取って魔力をあらためていた拓也は、そこで肩の力を抜く。
「とにかく、大事なくてよかった。まったく……本気で焦ったぞ。」
「ごめんって。俺も想定外で……」
「まあ、倒れることを想定しろなんて無理難題だもんな。」
拓也にこちらを責めるような雰囲気は全くない。
いつもは自分が調子を悪くすると、説教の一つや二つくらい飛んでくるのに。
自分が拓也を素直に受け入れられるようになってから、拓也の態度もまた変わってきている。
『実の傍で実を守るのがおれの仕事だ。』
『おれは、その選択を尊重する。』
拓也の言葉が
ああもはっきり言われると、言われたこっちは気恥ずかしい。
殺してくれると約束してくれただけで十分だし、それ以上のことを拓也に求めるつもりなんてないのに。
自分は大したことなどしていないのだが、一体何が拓也をそこまで変えてしまったのだろう。
本人に訊ねると墓穴を掘ってしまいそうで、一人
そんな実に、拓也がまた語りかける。
「起きて早々悪いんだけど、話せる気力はありそうか?」
訊ねられたのはそんなこと。
実は、きょとんと
「うん……それくらいなら。」
「そうか。」
実の答えを受けた拓也は一度瞑目し、静かに息を吸った。
そして次に放たれた言葉に、実の神経は音を立てて凍ることになる。
「実、正直に話してくれ。ここ最近の体調不良、魔力過多だけが原因じゃないな?」
「―――っ!!」
拓也からの指摘に、実は息をつまらせた。
条件反射でごまかそうとして、一瞬でそれが意味のないことだと悟る。
こうして倒れてしまった後だ。
魔力の暴走が原因ではないとするならば、それ以外に原因があると思われるのは当然のこと。
それでも……できることなら、知られたくはなかった。
ユエを保護した一件から、自分たちはほとんど休みなく、様々な事件に巻き込まれている。
地球に戻る暇なんて、ほとんどないほどに。
それで二人の―――特に、拓也の雰囲気が常にピリピリしているのは肌で感じ取っている。
だからこそ、二人にこれ以上の心労をかけたくなかった。
それなのに、本当にタイミングが悪いものだ。
「……いつから、気付いてた?」
気まずげに視線を泳がせた実は、苦々しくそう訊ねる。
拓也の返答には、迷いがなかった。
「三週間は前から、なんとなくな。理論上では体調が楽なはずの時でも、どこかきつそうな顔をしてるから、おかしいとは思ってたんだ。今回のことが決定打ではあったけどな。」
「そっか……」
これは参った。
この呼び声を感じるようになったほぼ最初から、拓也には異変を看破されていたというわけだ。
はっきりと指摘された以上、あれこれ言い
それを察した実は、諦めの意も込めて深く息を吐いた。
「―――呼ばれてる気がするんだ。鎮魂祭の時から、ずっと。」
観念して、隠していたことを白状する。
「呼ばれてる?」
簡潔なまとめに、拓也は眉をひそめた。
実はそれに小さく頷く。
「どこの誰かは分からない。明確に俺が呼ばれてるって確証があるわけでもない。でも……とにかく、誰かが何かを呼んでるんだ。俺はそれに、なんでか応えなきゃいけないって思ってて。」
そこまで語った実は、どこか自嘲的に微笑む。
「自意識過剰だって言われれば、それまでなんだよ? でもね……俺が魔力を逃がすために魔法を使う度にそれを感じてたら、意識するなって方が無理じゃん…? イルシュのところで俺がおかしくなったのは、その声がすごく近くから干渉してきたからなんだ。」
「干渉…?」
「うん。意識的な干渉ではないと思うけどね。俺がいくら呼びかけても、応えてもらえなかったから。」
そこまで言うと、拓也は思案げに口元に手をやった。
そして、その隣で尚希が明らかに表情を変える。
「尚希さん…?」
ちょっとした違和感。
実が声をかけたことで、拓也も隣の尚希に注目する。
尚希はこちらの問いかけに答えを寄越さなかったが、その顔は明らかに深刻そうであった。
しばらくして、尚希は無言でズボンのポケットに手を突っ込む。
そこから出てきたのは携帯電話だった。
それを耳に当て、尚希はしばし沈黙。
そして相手が出た瞬間、彼はこう言い放った。
「今すぐこっちに来ないと……―――あのこと、実に話すからな。」
尚希が告げたのはそれだけ。
しかし、電話の相手はそれでかなり動揺したようだった。
混乱したように甲高い喚き声が電話口から漏れる中、尚希はそれを一切無視して電話を切る。
尚希が表情に浮かべる深刻さ。
それに、どうしようもなく不安が掻き乱されるようだった。
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