三年前の春
──この国は強い権威に纏われた、皇女によって
かつての人々はそう語る。
この国は皇室によって護られているのだと信じられていた。大きな力によりこの国は
相手が
今となっては全く根拠のないものと
この日本という国は過去より外国との
ずっと長い間、
少ない資源の中、外来の脅威に
だから、人々は希望が欲しかったのだ。いつまで苦しい
加護があるからこの国は
その
人々に平和が…… 悠久の平和が訪れるのかと思われた矢先であった。
一五年程
内乱の原因が
当然、争いの原因はそれだけではなかった。しかしながら結果として同じ国が西と東に二分して争う歴史が新たに始まってしまうことになる。
しかしながらこの内乱が泥沼化し、
同じ国の人間同士が十年以上に渡り争い続けた果てに残されたのは、疲弊、困窮、貧困、そして満身の
そんな国民の姿に胸を打たれ、平和への一歩を踏み出した若き人物がいた。
第一二三代目皇帝
『皇女様』と慕われたこの人物の献身とも言える働きにより西側との「停戦協定」の締結へ至った。王の首とも言える皇女が自ら西側に歩み寄り、交渉を成立させたことが平和へと近づく大きな一歩となる。
それだけではなかった。停戦状態ながらも、分裂前の国状態に戻す…… すなわち戦争前の一つの国へと彼女の力により元に戻すことに成功したのだ。
命を賭けた彼女の力によってついに、今日のように平穏な生活を全うすることができるようになった。
その偉大な
3年前のあの事件が起きるまでは。
『皇女暗殺事件』
それは今でも記憶に新しい、国中を……いや、世界までも
時は三年前、三月の某日のことである。春の訪れを待つように、
皆が笑顔で過ごせるよう、己の命を
そのあまりにも衝撃的すぎる出来事は
この国において知らぬ者は居ない偉大な人物の暗殺…… 人々は大きく嘆き、悲しみ、そして平和が
国中に
その皇女を殺害したのは、売木 桜の「
桜は事の詳細はよく分からない。ただそれは現行犯であったという揺るぎない事実であった。姉の手によって『平和の象徴』を抹殺したのだ。
姉は当時、皇女直属の軍…… 通称皇軍と称される大軍の軍人として家を離れていた。
更に姉は優秀な軍人として抜粋され、皇女の
正式名称は他にあるも、
皇女にその命を捧げても守ろうとする騎士の職務は、人々にとても強い印象をもたらしていた。
だから、この国の子供達は皆一度は
数ある軍人の中でも最高峰の名誉とされる騎士に任命されたときは、それこそ本当に売木家の誇りだった。桜にとっても憧れであったそんな姉が『平和の象徴』を手にかけるという事実。聞いた当初は何かの間違いではないかと耳を疑っていた。
皇女を守るはずである立場の騎士が、あろうことか皇女を殺す。当然のようにこの事件は話題性を
本事件及び皇女の崩御を受け当然ながら、国の情勢は一気に緊迫状態を迎えることになる。
結果、『皇女を裏切る極めて残虐な行為』『人の愚かな錯乱による国家反逆行為』であるとして姉は法廷で死刑判決を受けた。
そして事件を皮切りに桜達にも火の粉が降りかかることとなる。身内であった桜達は国中の人々から白い目を受ける対象となった。
夏希が疑いをかけられた日から、街中の人間から強い非難を受ける生活が始まってしまった。絆と桜は通っていた学校の生徒、および教諭より「国家反逆者」のレッテルを貼られ通常の生活がままならなくなってしまう程までに陥ることになる。
本当に
お前の姉は人殺しだ。お前も危険人物だろう
お前の姉がこの国を不安に
お前の姉がいなければ、皇女様は死ぬことはなかった
お前の姉が皇女を殺し、またも戦乱の時代を導こうとしている
上げればキリがない……
電話は、一晩中鳴り止むことはなく、大量の脅迫状。そして、全国区に居住地を知られ正義を語る群衆による私刑を受ける事もあった。
……桜も理解は出来ないが、気持ちは察することができた。
──自分の大事な人が他殺された時、どの様な心情となるか……「坊主が憎けりゃ袈裟まで憎い」とは言い得て妙である。
そして、それを守ってくれる人は
国を裏切るということに、法もない。国の敵なのだから受けて当然だと……
──本人は既に極刑を命じられているのにも関わらずだ……
その様な事案を踏まえ売木家は大きな形で崩れることになる。夏希はもちろんだが、他の姉達も家に戻って来なくなり、絆と桜が二人きりで石を投げつけられる家の中で過ごすことが多くなった。
こうした出来事が重なり精神的にも耐えかねる頃、桜は友人の力を借りて都心から遠く離れた山奥…… 北城村へ居を移ることを決意したのだ……
誰もいない北城村へ…… 逃げるという選択をした。
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