第4話 町人からの赤穂浪士への献上

 さて、一週間後。

 佐吉は約束通り、以前に赤穂の浪士と出会ったところへ向かってみると、そこには約束通り、あの時と同じ夜鷹そばの屋台がそこにあった。

 佐吉は屋台の席に座るなり、


「お待たせ、いたしやした」


 と、変装している赤穂の浪士に一声。赤穂の浪士、所詮は町人のすることなど、たかが知れておるといった口ぶりで、


「して、首尾は?」

「こちらにて、ごぜえやす」


 そう言って、佐吉が懐中から取り出したる巻物は、佐吉の号令によって江戸っ子達がかき集めてきた、吉良の屋敷の情報の集大成。

 それを受け取った赤穂の浪士、どうせ大したものではあるまいと、巻物をあらためて見て愕然。討ち入りのために必要とする、全ての情報がそこにあった。


「お、おぬし……どうやってこのような――」

「おおっと。野暮な詮索はご容赦くだせえ。あっしら町人は、人によっちゃあ、表に出ることもはばかれるような仕事に就いている者もござんす。そのような輩からの手助けを受ければ、武士の方からいたしやすと、不名誉と思われるかもしれやせん。ゆえに、その巻物は、町人が作ったものじゃあございやせん。いうなれば、江戸の町人の心意気が作ったものだと思っていただけるとありがたきと、この佐吉、心からお願い申し上げる所存でごぜえやす」


 ううむ。と赤穂の浪士は唸り声。確かに、この町人の申すこと、至極もっとものことと思える。浪人に落ちぶれようと、我ら赤穂浪士が心に抱くは、真の武士の心意気。ここはこの町人の申し出を素直に受けるが、最上。赤穂の浪士は小さくうなずき、


「あい。わかった。もう、聞かぬ。おぬしら江戸っ子の心意気とやら、確かに受け取った。それで、おぬしらは我らに何を求める?」


 スカッとする面白えこと、などと口が裂けても言えるわけがない。ここは佐吉の口八丁の見せ所。


「別に、何も求めちゃあおりやせん。強いて言うなら、旦那方が志を貫徹されることが、あっしらの願いでございやす」


 佐吉の言葉に赤穂の浪士、まさに感無量といった風に体を震わせ涙声。


「そうか。そうか。おぬしらの願い、確かに聞き届けた。その願い、必ずや、成就されることであろうぞ。そして、それはまた、せっしゃらの長きにわたる宿願でもある。見ておるがよい、佐吉とやら。武士の一念、赤穂浪士の心意気。必ずや、にっくき仇敵に見せつけてくれようぞ」

「その意気でごぜえやす。江戸の町人を代表して、この佐吉、心より、旦那方の御悲願が成就されることを応援させていただきやす」


 渡すもんは渡したし、長居は無用だぜ。佐吉は感涙にむせび泣く赤穂の浪士をその場に残し、これから起こるであろう大事件に思いをはせながら、家路へとその足を急がせた。

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