4-7
僕は弓削さんのことをピンク色の目で見ていた。それを見た弓削さんは表情を曇らせ、そんな弓削さんの表情を見て僕は自分の無力さを責めてきた。その時、僕の目は何色で弓削さんを見ていたんだ。
僕自身を責める僕の心の色は、全て弓削さんに伝わってしまっていたのではないか。それが弓削さん自身の心にまで重くのしかかるとも知らず。
「弓削さん、僕は……」
何を言おうとしているのだ。弓削さんのためだったら、僕は何も苦労は感じないとでも言うのか。どうすれば弓削さんが喜んでくれるか考えるだけで、僕も楽しくなったとでも言うつもりか。それじゃあ、その目の色はどう説明するんだ。
口をつぐんだ僕の代わりに、弓削さんが自分の言葉を続ける。
「いつか……いつか、私を見る今枝くんの目の色が変わる。それを、ずっと怖がってた。でも、ね……私、分かったんよ。その恐れを終わらせる方法……」
言わないでくれ。
「それは……私から身を引くこと。元々、私から一方的に始めた想いやき……私が諦めるんが、二人のためやね」
違う。僕だって、ずっと……ずっと? 出掛かった言葉に自ら疑問を抱く。
僕が七年前の弓削さんに抱いた想い。その話は灘さんにもしてある。それなら、どうして灘さんは弓削さんに話してくれなかったのか。灘さんがきちんと説明してくれていれば、弓削さんだって不安な気持ちにはならなかったはず。
いや、灘さんのせいじゃない。大切な想いだからこそ、本人の口から言わなくちゃいけないんだ。だから灘さんは、僕が言うまで黙ってくれていたんだ。それに弓削さんを悲しませているのは僕だ。僕自身の心なんだ。
僕は今日、弓削さんに打ち明けるつもりでいた。僕も七年間、弓削さんが好きだったと。弓削さんが初恋の相手だったと。そんな言葉、弓削さんに信じてもらえるはずがないじゃないか。
高校で再会した僕は、弓削さんのことをグレーの目で見ていた。自分とは関わりの無い人間を見るグレーの目で。七年前の出逢いのことも忘れて、弓削さんへの期待も捨てて。弓削さんに対する僕の想いが長続きしないと、僕は自分自身でとっくに証明してしまっていたんだ。
立ち尽くす僕の前で、弓削さんは拭っても拭っても後から零れ続ける涙に濡れていた。
「ここで、本当のバイバイするぞね。もう、カンゴくんのことを好きにならん……カンゴくんと釣り合う人間になろうと思わん。やき……もう、私のことで苦しまんで」
涙ながらに訴える弓削さんに掛ける言葉が思い浮かばず、僕はただ胸を痛めながら弓削さんを見つめ続ける。
その悲しみの雫をどうすれば拭うことが出来るのか。歪ませた表情を、どうすれば笑顔に戻すことが出来るのか。そうして悩み苦しんだ想いは瞳に宿り、また弓削さんを傷つけてしまうのだ。
弓削さんは僕の視線から逃れるようにして背を向ける。くぐもった声は、弓削さん自身に言い聞かせているように聞こえた。
「つらかった……カンゴくんと逢う度、切のうて胸が痛かった……別れる度、苦しゅうて泣きそうになった……次に私を見るカンゴくんの目の色を確かめるんが怖うて」
震える背中は、あまりにも痛ましくて僕も目を背けたかった。今すぐ、この場から逃げ出したかった。
自分に何が出来るのか。弓削さんに僕の方を振り向かせたって、また悲しませるだけだというのに。それなのに弓削さんが泣き続けるのを放っておけず、僕は無言で立ち尽くす。
「でも……もう、それも終わるんや」
終わらせたくない。願いとは裏腹に何も解決策が思い浮かばず、僕はうなだれるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます