第四話 ブルー・スカイ・アンド・オーシャン

4-1

 弓削ゆげさんを喜ばせたい。そのためには僕の目を水色に変える必要がある。そのためには僕が弓削さんのためなら何だって出来ると考えを改める必要がある。


 僕が弓削さんを好きだからって、弓削さんと一緒にいて嬉しいからって、それで自分だけ楽しんでちゃダメなんだ。


 僕は弓削さんが好きだ。この地球上の誰よりも。だから僕は、弓削さんの幸せを第一に考えなくてはならない。それが水色の愛なんだ。


 弓削さんは僕のことを小学生の頃から七年間も想い続けてくれていた。僕が弓削さんに気がついたのは、ほんの一ヶ月前のこと。弓削さんの僕への想いは、八十四倍も深くて大きい。


 ほんの一ヶ月でも、僕はどれだけ弓削さんのことで悩んで胸を痛めて来たことだろう。僕が体験した八十四倍も苦しんで、果たして僕はその痛みに耐えられるだろうか。


 弓削さんの想いの深さを考えると、弓削さんの幸せを願わずにはいられない。弓削さんの七年間の想いは結ばれなくてはならない。そして、その鍵を握っているのは僕なんだ。弓削さんを幸せにすることは、僕にしか出来ない。


 それなのに、その方法が思い浮かばないなんて。


 僕は今でも弓削さんのことを大切に想っている。でも、僕の目を見た時に弓削さんは表情を曇らせる。だから僕の目はまだピンクのままなのだろう。自分本位の恋でしかないピンクの瞳。自分では十分に弓削さんを想っているつもりでも、本心のところではまだ足りていない。


 一体、どうすれば僕は本心のレベルで弓削さんへの想いを変えられるのか。一人で考えているのでは限界がある。頼れるのは、もうあの人しかいない。恐らく、弓削さんについて誰よりもよく知っている人。そして、弓削さんのことを誰よりも深く考えている人。


なださん……話があるんだけど」


 移動教室の合間に隙を見つけて灘さんに声を掛ける。運良く灘さん一人だ。


「わたくしに? スミエにでなくて?」


「いや、その……弓削さんのことについて相談があるんだ」


「……わたくしがスミエのことで今枝いまえだくんに協力するとでも思っているの?」


「弓削さんのためでもある、と言ったら?」


 多分、こう言えば灘さんなら引き受けてくれるはずだ。


「……そう言えば、わたくしが納得するとでも?」


 バレテーラ。


「でも、まぁいいわ。放課後、ツラ貸しなさい」


 顔を借りたいのは僕の方だけど、とにかく助かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る