3-9
「奈都……無理しなくていいよ。いや、僕なんかのために無理はしないでほしい」
「カンちゃん……」
奈都は僕にとって、ただ一人の幼馴染。交友関係の狭い僕にとっては、長い時間をかけて築き上げてきた大切な親友なんだ。
その親友の想いをねじ曲げてまで、自分のワガママに付き合ってもらおうとは思わない。
「ほら、もう帰ろうぜ」
「……やっぱりボクじゃ、恋人のマネらぁて出来んがよね」
夜も遅いし、家に帰るよう促すと奈都はため息まじりにつぶやいた。
「カンちゃんと付き合えるがは、女の子やって分かっちゅうよ。ボクは……」
「奈都……?」
「ボクは……カンちゃんにボクのこと、女の子みとう思うてほしいわけやない。こんまい頃から女の子扱いされてイジられてきたボクとただ一人、男友達として付き合うてくれたカンちゃんやき。やき、ボクらの関係は恋人同士とは違う」
顔を上げて夜空を見上げながら、奈都は自分の気持ちを一つ一つ探るように口にする。
「ただの友達ゆうにゃ、想いが深すぎる。兄弟ゆうがも違うし……複雑な関係やね」
奈都は僕との関係を、そんな風に考えていたのか。奈都が側にいるのが当たり前すぎて、僕は二人の関係についてそこまで深く考えてこなかった。ただ、これからもずっと友達でいるのだと思っていた。
「一つだけ確かながは、ボクはカンちゃんのためやったら何でもしてあげれるゆうこと。カンちゃんのためやったら女の恰好するくらい、なんちゃあないき……でも、カンちゃん以外にゃ見られとうないけど」
それで人目を忍んで、夜の筆山か。いや、それは奈都の恰好を見た時から何となく察していたけど。
「ボクと友達でいてくれたカンちゃんに出来る恩返しやし、カンちゃんの喜びがボクの幸せやし……やき、ボクには甘えて何でも言うてほしいがよ。カンちゃんに相談された時、カンちゃんがボクを頼ってくれてると思うて嬉しかったが」
「……ゴメン。そのせいで、したくもない恰好をさせて」
奈都は僕のためだったら女装くらい何でもないと言う。震えた声で。
僕のためなら何だって出来ると言いながら、やっぱり無理をさせてしまっている。
それでも奈都は首を横に振る。
「そんなことない。カンちゃんのためやって思うたら、ボクはどんなことでも出来る。信じて……くれるが?」
「……あぁ。信じるよ」
信じてないと言ったら、それは僕が奈都との友情を信じていないことになる。
奈都が嫌々ではなく、本心から僕の力になりたいと言ってくれていることを否定することになる。
街からの明かりで、表情も至近距離なら何とか見て取れる。奈都の心配そうな上目遣いにうなずいてみせると、安心したように微笑んでくれた。
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