2-13

「お料理、美味しかったねー。ん~~~、プリンも美味しい♪」


 デザートのプリンを口にして、弓削さんが喜びを顔いっぱいに表している。一個発見。弓削さんは嬉しいことがあると、腕を振るクセがあるんだ。


 僕はコーヒーを口にしながら、心の中で微笑んだ。


「でも、やっぱりちょっと高いね。もっと前もって調べてから、お店を決めれば良かった」


「ううん! そんなこと無いがよ。今枝くんが選んでくれたお店やき、今枝くんが誘ってくれて……嬉しかったし」


 高校生の財布には、ちょっと厳しいお値段。当然、カッコよく全額出す余裕なんて無い。


 そのことを詫びると弓削さんはすごい勢いで首を横に振る。それから少しうつむいて、ほっぺたをほのかに染めた。


 本当に可愛いな。こうして目の前で一緒に食事して会話をしていると本当にそう思う。


 顔立ちとか雰囲気だけじゃなく、話す時のイントネーションの付け方とかちょっとした仕草の一つ一つが魅力的なんだ。


「今枝くんはココ、よく食べにくるん?」


「ううん。そんな贅沢を出来る家じゃないし。兄貴の成人のお祝いで一度、家族で来たきりだよ」


「そうなんやね。私も誕生日とか特別な時に連れてってもろうただけやし……ふふっ」


 小さく微笑んだ後、弓削さんがこっそり言うのが聞こえた。


「初デートの特別な日に来れて……よかった」


 あぁ、もう! 本当に可愛い。ひょっとして今日の僕、世界で一番幸せなんじゃないか。


「ふふっ、この後も楽しみ」


 顔を上げた弓削さんにニッコリしながら言われて、途端に僕は浮かれてた気持ちがしぼんだ。


「あ……この後、か。どうしようか……」


 自分から誘っておいて何もプランを考えられてない不甲斐なさよ。


 普段から遊びの相手は男友達の奈都一人。遊ぶエリアもせいぜい帯屋町くらいか。後は、とでんで南の動物園まで行こうか。無料だし。


「……私の行きたいところでもえいかな?」


「えっ、あっ、うん。もちろんだよ」


 返事に窮していると弓削さんの方から切り出してくれた。僕としては助かったが、頼りない男と思われてないことだけを祈ろう。


「……帯ブラ、したいなぁ」


「えっ、帯ブラ?」


 弓削さんが口にしたのは意外な答えだった。帯ブラ、すなわち帯屋町商店街をブラブラしたいと言ってきた。


 僕にとって、それは奈都との日常。弓削さんだって実家のお店があるのが帯屋町なのだから、特別なイベントでもないだろう。


「本当に帯ブラでいいの?」


「うん……あの、タエから聞いちゅう? 私がこっそり、その……今枝くんの後を……」


 確かに灘さんから聞いた。弓削さんが僕の後をつけていたという話を。


 恥ずかしさからか弓削さんの言葉は後半、小さくて聞き取れなかったが。


「そんでね、今日はこっそりやのうて……一緒に帯を歩きたいなぁって」


 照れながらも上目遣いに言われて断る奴がいるだろうか。帯屋町アーケードならよく知ってるし、すぐそこだし何も問題は無い。


 何より好きな女子と一緒に歩けるというのが最高のシチュエーションだ。奈都には悪いけど。


「もちろん、いいよ。それじゃ、帯ブラしようか」


「うんっ」

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