2-12

「ん~~……めっちゃ美味しい! やっぱり、ここのミルクティーが一番ながよ~」


 それぞれが注文して買ったミルクティーを一口飲んで、弓削さんが最高の笑顔を見せてくれる。


 僕も一口、飲んでみる。これがタピオカミルクティーという奴か。初めて飲んだ。


 紅茶の香りが心地よく、程よい甘さは嫌味が無い。タピオカのモチモチとした食感は不思議な味わいながら、何だか楽しくなってくる。


「うん、美味しいね」


「でしょでしょ? 私もこのお店見つけた時から、ずっとお気に入りなんよ! カン……今枝くんに気に入ってもろうて嬉しいちや」


 腕をぶんぶんと振りながら弓削さんが力説する。学校では見せないような姿も新鮮で可愛い。


 きっと、これが素の弓削さんなんだろうな。それを今は僕だけが独り占めしているんだ。


 もしかしたら最初から、ここのタピオカ屋に誘うつもりでいたのかな。日曜市の方に曲がるように誘導したり、車道を避けて歩道を歩くようにしたり。僕に美味しいタピオカミルクティーを勧めるために。


『ありがとう。僕と弓削さんが初めて一緒に飲んだ記念のミルクティーだね』


 あぁ、こんなキザなセリフを吐いて弓削さんの気持ちに応えられたらな。口に出すのは恥ずかしいし、まだそこまで親密な仲じゃないけど。


「日曜市、賑わっちゅうね?」


「あ、うん。そうだね」


 タピオカミルクティーを手にして歩き続ける。弓削さんは気を遣って色々と話しかけてくれるのに、僕の方はつまらない返事しか出来ない。


 頭の中はこんなに饒舌なのに。こんな時まで妄想の住民か。


 飲み終えたミルクティーの容器をゴミ箱に捨てて、位置的には追手筋の真ん中らへん。


 目の前には追手前おうてまえ女子の校舎が見える。


「そう言えば弓削さん、どうして高校は追手前女子じゃなくてカレンに?」


「えっ? あ、それは……まぁ、色々とあっちゅうがよ」


 あっ、聞いちゃいけないことだったかな。たまに僕から話題を振れば、この有様か。


「えっと……こっち曲がろうか?」


「う、うん。そうやね」


 何となく追手前女子の前を通るのが気まずく感じて南へと曲がる。


 弓削さんの返事が歯切れ悪く聞こえたけど、すぐに思い当たった。歩いて行った先に弓削さんの実家が営むクランが見えたからだ。


 あー、クラスメイトと遊んでる時に家の前を通るのは確かに恥ずかしかったりするもんな。僕のアホ。空気読め。


「……あっ、レストランがあるよ。お腹空いてない?」


「あ、うんっ。お腹空いたねー」


 クランを越えた先に、白い壁と青い屋根のチャペル風の建物が見える。この辺では有名な西洋レストランだ。


 弓削さんの注意をそちらへ向けつつ、僕らは道を渡った。

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