2-10

 待ちに待った日曜日。僕はJR高知駅の南口に立っていた。


 服は何を着ていこうか昨日の晩から悩んでいたが結局、目に付いた物を身に着けていた。そもそも迷うほど服を持ってはいないのだが。兄ちゃんのはサイズが合わないし。


 せめて髪の毛だけはきちっとセットしてこようと思ったが、これでちゃんとセット出来ているのか不安でたまらない。よさこい祭りの時はチームのスタッフさんがやってくれるけど、普段はボサボサのままでセットなんてしないからな。


 待ち合わせの時間まで、あと十五分くらいか。だいぶ早く着いてしまったな。女の子との待ち合わせなんて初めてだから、だいたいどのくらい前に来ればいいのかなんて分からない。


 そして後から振り返ってみれば、これはもしやデートという奴なのではないか。弓削さんを誘った時は、友達と遊びに行くくらいの気持ちでいたから全く気が付かなかった。


 弓削さん、早く来ないかな。いや、まだ心の準備が出来てないから待ってほしい。


 待ち合わせの時間になる前からドキドキしてる。弓削さんが来たら、何て言おうか。


『ごめんね、待った?』


『全然。今来たところだよ』


 そんなお決まりのやり取りが頭の中でリピートしているが、果たして現実はそう上手くいくだろうか。


 などと考えている内に、その時は来た。


 南から来た路面電車が停まり、そこから弓削さんが降りてくるのが見えた。


 普段の制服姿とは異なるが見間違えるはずがない。遠目からでも分かる上品な佇まい、整った顔立ち、ショコラブラウンの綺麗な髪。弓削さんの登場に、それまで考えていた内容が全て消し飛んでしまった。


 弓削さんは僕に気が付くと、小走りで近づいてきた。今日の服装は白いノースリーブのブラウスにチェックのスカートで、学校で見かけるのとはまた違う魅力を醸し出している。


「お待たせー。今日も暑いねっ」


「う、ううん。全然」


 緊張で頭が真っ白になり、訳の分からない返事をしてしまう。


 近くで見れば、ブラウスは薄っすらと黄色い花柄で彩られている。スカートもくるくると巻きつけるラップスカートという奴で、サイドにだけプリーツが入ってる。


 流石はアパレルショップのお嬢様だ。オシャレも堂に入っている。僕なんかが一緒に歩いて笑われないだろうかと不安になる。


「汽車で遠出するが?」


「あ、いや。歩きのつもりだけど」


 小首を傾げて尋ねてくる弓削さんに反射的に答える。仕草がいちいち可愛い。


「ほんなら、イオン?」


「いや……お街(帯屋町周辺)にしようかな」


 僕からの返答に、弓削さんは目をパチパチさせる。


 あっ、そうか。


「そっか……だったら待ち合わせは、はりまや橋で良かったね」


 弓削さんの家は、はりまや町。そのものズバリ、お街だ。そして僕の家は、その南に位置する天神町だ。


 すぐ近くの帯屋町で遊ぶんだったら、わざわざ高知駅で待ち合わせる必要はない。弓削さんが言う通り、駅から汽車に乗ったり駅を越えた先にあるイオンで遊ぶのなら別だが。


 いきなり失敗してしまったか。僕のアホ。


「ごめん。なんか……待ち合わせといったら駅かな、と思って」


「…………」


 あー、絶対なに言ってんだこいつって思われた。


 今日のしし座の運勢、十二位だったか……なんて考えてると、弓削さんが笑顔を浮かべた。


「ふふっ。私も駅前の待ち合わせって、デートっぽいなぁって思っちゅうき。おんなじやねっ」


 肩をすくめて笑う仕草は照れくさそうで、それでいて喜びを隠しきれない感じで。少なくとも僕には、そう見えた。


 そうか。弓削さんも僕と同じ考えだったか。そう思うと、僕も安心と喜びから自然と笑顔になれた。


 どうやら、しし座は一位だったみたいだ。


「じゃあ、行こうか?」


「う、うん……」


 一瞬、弓削さんの表情がこわばって見えた。


 それから寂しげに目を伏せたかと思うと、小さく「よしっ」とつぶやいて気合を入れてる風だ。


「……うんっ。行こっ」


 僕と同じで弓削さんも緊張してるのかな。そう考えると、ますます愛おしく思えてくる。

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