2-6
クランを後にした僕と灘さんは、商店街の南に位置する帯屋町公園へと場所を移した。
「どうして弓削さんに、あんなこと言ったんだ?」
「どうしてって?」
先ほどの店内でのことを灘さんに詰め寄る。自分の中の怒りを十分に表したつもりなのに、灘さんは涼しい顔をしてとぼけている。
「灘さんが自分で言ったんだろう。弓削さんが、その……僕に気があるんじゃないかって。それを証明するために、あんなウソをついたのか?」
「別に。オヤジくんにおせっかいを焼くつもりは無いもの。でも、さっきのスミエの態度でオヤジくんにも分かったでしょう? あの子の気持ちが貴方に向いてるって」
「……でも、自分が気になってる相手が別の異性とくっついてる姿を見たら誰だって傷つくだろう? 弓削さんを傷付けるようなことをしたのは許せない」
語気を強めて言うと、灘さんの目つきも鋭さを増した。僕との距離を詰めて間近で睨んでくる。
「どうして今枝くんが許せないの?」
「えっ、それは……」
「わたくしはスミエとの間に誰も入ってほしくないだけ。それだけ、わたくしにとってスミエはかけがえのない存在なの」
思いがけず強い口調で言われ、僕は灘さんの勢いに飲まれてしまった。
「わたくしは自分の気持ちを素直に打ち明け、スミエもそれを受け入れてくれたわ。だから他の人には、わたくしたちの間に入ってほしくないの。さっきのウソも、そのためよ」
それは僕と灘さんが付き合っていると弓削さんに思い込ませることで、弓削さんに僕のことを諦めさせようとしたってことか。
「それぐらい、弓削さんのことを……?」
「そうよ。それで、貴方はどうなの?」
「僕……?」
「スミエはね、貴方が気になってるのよ。今枝くんと同じ音楽を聴いて、同じ店でたい焼きを食べて、そうすることでいつも貴方と一緒にいる気分を味わってるの」
灘さんが言った言葉を頭の中で繰り返す。その間も灘さんは言葉を続ける。
「ねぇ、それを知って貴方は何も行動をしないの? 自分の気持ちをスミエに打ち明けて、あの子の想いを確かめたいとは思わないの?」
「でも、僕なんかじゃ弓削さんとは……」
釣り合うはずもない。灘さんの話が真実だとして、弓削さんが僕に気があるのだとしたら、これほど嬉しいことはない。
その一方で、どうしても躊躇ってしまう。相手は学校一の美少女にして成績トップの姫様だ。かたや僕は全てが平凡な陰キャに過ぎない。
そんな僕が弓削さんの隣にいたって誰も納得したりしない。身のほどを知れと後ろ指をさされるのがオチだ。弓削さんだってきっと、僕がつまらない男だと分かれば幻滅するはずだ。
「それじゃあ、今枝くんはスミエのことなんか好きじゃないって言うのね? それなのにスミエを傷付けたのは許せないなんて、よく言えるわね」
灘さんの言葉に僕の胸はズキリと痛む。
僕と弓削さんとでは釣り合うはずがない。それでも灘さんの言葉を否定したい気持ちの方が強かった。
「違う……僕だって、弓削さんのことが……気になってる。憧れてる人だ。だから弓削さんが傷つくのが嫌なんだ」
「ほら、やっぱりスミエのことが好きなんじゃない。わたくしとのことをスミエに誤解されるのが怖かったんでしょう? だから、わたくしが許せないんでしょう? それを、わたくしがスミエを傷つけたのが許せないだなんて……スミエに押し付けるのは卑怯だわ」
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