2-5

「……二人が付き合っちゅう?」


 ゾッとする想いで弓削さんを見る。


 弓削さんはというと、真剣な目で僕と灘さんを見比べている。かと思ったら唇をとがらせて灘さんに詰め寄った。


「タエ、ウソついたらいかんよ」


「ウソじゃないわよ。わたくしたち、本当に……」


「ウ・ソ! 今枝くん、怒っちゅうやん」


 学校では誰かとケンカをしたことも無い、そんなイメージも無い弓削さんが目を三角にしている。


 灘さんのウソに対し、本気で怒っている表情だ。そんな顔も可愛いと思ってしまう僕を殴ってやりたい。


 弓削さんの勢いに押されて、灘さんはすっかり黙ってしまった。早くウソだったと言ってくれ。そう願っていると、ふいに弓削さんが僕の顔を覗き込んできた。


「あ……ゆ、弓削さん?」


 憧れの女子に間近で見られて、僕の思考は宇宙の彼方へと飛び去ってしまう。心臓は自分でもうるさいくらいに鳴っている。顔も絶対、赤くなってるから背けたいのに弓削さんの綺麗な瞳から目を離せない。


 ジッと僕の目を見つめていた弓削さんが真剣な表情から一転、春の花のように笑った。


「うんっ。大丈夫!」


 弓削さんの言葉の意味が分からず、僕は「えっ?」と聞き返す。


 そこに至って弓削さんも僕との距離が近いことに気が付いたのか、慌てて後ろを向いてしまった。


「……ごめんなさい。からかっただけよ」


 灘さんがネックレスを外しながら謝る。ネックレスを受け取った弓削さんは、意外なほど穏やかな表情と口調をしていた。


「分かっちゅうよ。タエ、ずっと真っ青やったき。ウソやってことも、からかうつもりやないってことも分かっちゅう。タエの目は、ずっと『ごめんなさい』って言うちょったもん」


「……そんなに顔に出るタイプだったのかしら?」


 自分のウソが弓削さんには最初から完全に見破られていたみたいで、灘さんは自分の顔に手を当てて自嘲した。


「ごめんなさい。ここに来た本当の理由はコレよ。貴方、たい焼き屋さんに忘れていったわよ」


「え……あっ、ヤダ」


 灘さんがブリティッシュ・スティールのCDを取り出したのを見て、弓削さんが両手をバタバタさせる。


「はい、今度は忘れないでね。せっかく今枝くんと同じCDを買えたんでしょう?」


「も、もう~、タエってば!」


 弓削さんはCDを受け取ると、気まずそうに僕の方をチラチラと見てくる。


 弓削さんがブリスチのCDを買ったのは、僕が同じ物を持っているから? 灘さんの話だと、どうもそうらしい。弓削さんも恥ずかしそうにしてはいるが否定はしない。と言うことは、今度は灘さんの話も本当だということだ。


 考えがまとまらず呆然とする僕から顔を隠すようにして、弓削さんはパタパタとスタッフルームへ逃げ込んだ。


「……さぁ、用事も済んだし行きましょうか」


 弓削さんがいなくなると、灘さんはいつものクールな様子で店を出て行こうとする。僕は慌てて灘さんの前に立った。


「いいけど……一つ話がある」


「えぇ、わたくしもよ」


 何故、弓削さんにあんなウソをついたのか。その意図を確かめるまで灘さんを許せそうにない。そんな意思を込めた視線を送ると、灘さんの方も眼鏡の奥からキツイ視線を送ってきた。

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