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先導していた灘さんの足が止まったのは、帯屋町アーケードの中。弓削さんの実家が営んでいるお店、クランの前だ。
店の中に入ると、平日の夕方という時間帯だが何人かの客の姿が見える。僕の目は、自然と弓削さんを探していた。
見つけた。弓削さんは学校の制服の上に、スタッフ用のエプロンを付けて接客をしていた。
「スミエの接客が終わるまで待っていましょうか」
灘さんに言われて、僕らは弓削さんから少し離れた位置へと移動する。
ただ待っていても手持無沙汰なので、ごく自然に店内に飾られた商品へと目を配る。
クランは女性物の衣類や小物を扱っているお店だから、当然僕は来るのは初めてだ。こうして店内を見渡してみるとキッチン用品なんかも置いてるのが分かる。
弓削さんと仲の良い灘さんは何度か来店したことがあるのか、慣れた様子で棚に置かれたアクセサリーを物色している。
奈都はというと、ちょっと気が早い秋物ワンピースが並んでいるのを面白くもなさそうに眺めている。すぐに飽きが来たのか「外で待ってる」と言って、出て行ってしまった。
僕はもう一度、弓削さんの様子を窺う。あれ? 弓削さんの姿が見えない。スタッフルームにでも行ってしまったのだろうか。
僕も店の奥へと行くと、壁際にくらんの今年の衣装が飾られていた。弓削さんもよさこい祭りで着ていた、オレンジと水色のきらびやかなデザインだ。
衣装の隣には大型のモニターが置かれ、夏のよさこい祭りの映像を映し出している。よさこい祭りには二百ものチームが参加するが、その中でも秀でた二十五チームには賞が贈られる。
受賞チームの演舞はソフト化されるが、今年の祭りのソフトは来週発売だ。モニターに映っているのは昨年のだな。くらんのチャプターをリピートで再生している。
モニターの中の衣装は真紅を基調にしたもので、確かに去年見覚えがある。昨年のくらんも二十五の受賞チームの頂点である、よさこい大賞をもらっていた。後夜祭の大トリで踊っているのを僕も観ていた。
去年の演舞でも、弓削さんは今年と同じく隊列の先頭で踊っていた。弾ける笑顔で体全体で表現している姿は、やっぱり姫様の称号にふさわしい。でも、その笑顔は今年のものとどこか違うようにも感じる。
モニター越しの映像だから、そう思えるのか。それとも中学時代の弓削さんだから、まだあどけなさが残っているせいか。
そんなことを考えながらモニターに釘付けになっていると、灘さんから声を掛けられた。
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