1-11

 商店街を抜けて大きな道路を渡る。そのまま住宅地を通り抜けると、再び鏡川へと辿り着く。


 行きは潮江橋を路面電車で渡ったが、今度は赤い欄干の天神大橋を徒歩で渡る。橋を渡り切った先が僕らの天神町だ。目の前にそびえる筆山が、おかえりなさいをしてくれる。


「じゃあな、奈都」


「おやすみー、カンちゃん」


 ここまで歩いてくる途中で、奈都の怒りもどこかへ飛んでいったみたいだ。それぞれの家へと伸びる道の分岐点で奈都と別れる。


 帰宅した後は、お風呂に入って晩ご飯を食べて宿題を済ませる。筋トレとアイソレーションも欠かさない。


 後は寝るまでの自由な時間。僕は音楽プレーヤーの再生ボタンを押した。流れてくるのは、もちろんブリティッシュ・スティール。


 激しいロックが多いブリスチだけど、中にはしっとりとしたバラードもある。例えば『モア・ザン・ア・ガール』とか。「他の女と違う」というタイトルらしく、この世でたった一人の特別なひとへの愛を綴った一曲だ。


 僕にとって、そんな相手はただ一人――弓削さんだ。


 でも、それは叶わない恋。今日もまた、それを再確認した。


 弓削さんの隣にいられるのは、弓削さんと同じくらい頭が良くて見た目もいい灘さんみたいな人だけだ。


 だから弓削さんも、灘さんの告白を受け入れたんだろうし。百合だの何だののウワサを信じるつもりじゃないけど、弓削さんと肩を並べられる相手になれるのは一握りの人間だけ。


 僕みたいに見た目もダサくて成績も平凡、おまけに音楽の趣味が古くてクラスメイトと話題が合わないような奴は友達にすらなれないんだ。


 妄想の世界でなら、いくらでも弓削さんとお話できる。僕が語る言葉に弓削さんが微笑んでくれる。正にバラ色の世界だ。


 でも現実は、僕と弓削さんにはクラスメイトという以外の接点が無い。こんなに恋焦がれているのに想いを打ち明けることが出来ず、僕の心の寂しさは世界を灰色に見せてしまう。ブリスチの楽曲に例えるなら『モノクローム・ワールド』だ。


 それは明日も、そして明後日も変わらない。弓削さんの華々しい世界を、隔絶された灰色の世界から眺めるだけ。


 それでもいいんだ。どうせ片想いで終わる恋なのだから。付き合った後の二人をどんなに想像してみたって、現実の僕はそんなに器用にキザには立ち回れない。


 だけど、もし弓削さんと両想いになれたら、これほど幸せなことはない。


 僕だって「別に結ばれるために恋したわけじゃない」なんて気取るつもりは無いのだから。


 でも結局、自分から行動するような勇気は持てない。何かしらの偶然が二人を導いてくれるのを期待して待っているだけ。いつもの妄想が現実になるのを待ちながら、明日も弓削さんの後ろ姿を眺めるのだろう。



 そう、この日までの僕は気が付きもしなかった。二人の関係が既に始まっていたことを。七年前、小学校三年生だったあの時から

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