1-2
「でもよー、姫様に声掛けるにゃ、まずは女騎士様を攻略せんと」
「聞いたで。H組の男が姫様の前に立った途端、女騎士様がスッと間に入って眼鏡の奥からキッと睨みつけよったがよ」
二人の話を聞いて、僕の視線は自然と弓削さんの隣へと向けられる。
弓削さんの話相手は、彼女と成績上位を争う女騎士様こと
弓削さんの人気に隠れがちだが、灘さんも結構美人な女子生徒だ。黒髪ストレートの髪を伸ばして眼鏡をかけたクールな優等生。明るい笑顔が特徴的な弓削さんとは対照的だ。
一学期の時は、そうでもなかった(あるいは僕が気にも留めてなかったのかもしれない)が、二学期に入ってから弓削さんと灘さんはいつも一緒にいる気がする。
休み時間の度に灘さんは弓削さんの隣に座って色々と話をしている。
ヤン坊とマー坊が言う通り、もしかしたら学校のアイドルである弓削さんに変な虫が付かないようボディーガードをしているのかもしれない。
美人の優等生二人があまりに仲良くしているもんで、弓削さんと灘さんが付き合ってるなんてウワサもあるくらいだ。
「あの二人の間やったら挟まりてぇ~」
「俺も混ぜぇや」
ゲラゲラと笑うヤン坊マー坊の会話がいよいよ本格的に下品になってきた。
これ以上は何だか弓削さんの清楚なイメージまで汚される気がして、音楽プレーヤーのボリュームを一気に最大にまで上げる。
周囲の音が遮られるくらいジャカジャカと耳元で鳴り響く。音漏れしてようが知るか。弓削さんのことをアレコレ言われるのを聞かされる方が僕にとっての騒音だ。
弓削さんはきっと灘さんと二人、知的な会話に花を咲かせているのだろう。僕みたいな凡人には出来ないような会話を。
僕みたいに流行に疎い人間は、こうして何十年も昔に流行ったロックを一人で聴いているのが性に合う。ブリティッシュ・スティールという洋楽バンドのナンバーだ。
東京に行った兄ちゃんが残していったポータブル音楽プレーヤーに入っていた曲で、僕は中学の頃からこればっか聴いている。
弓削さんは多分、ブリスチなんて知らないだろうな。でも、もし知っていたらそこから僕との会話が弾むかもしれない。
ほら、こんな風に。
『あれ、これってブリティッシュ・スティール?』
教室で僕が落としたブリスチのCDを手に取って、弓削さん――澄絵ちゃんは首を傾げる。
『そうだよ。澄絵ちゃんもブリスチ聴くの?』
『うんっ。私、大好きなんだー』
『そうなんだ。ウチに帰れば、もっとたくさんCDあるんだけど……よかったら見に来ない?』
『ホントに? 嬉しいなー! それじゃあ、いっぱいオシャレして行くね。せっかくカンゴくんのお部屋にお邪魔するんだし……』
そうして僕の部屋で澄絵ちゃんと二人きり。イヤホンを片っぽずつ耳に付けて音楽を聴いている内、二人の視線が交わり出していく。
やがて二人の距離は縮まっていき、まぶたを閉じる。そこで不意にイヤホンを引っ張られた。
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