第31話


 三日後。

 詩菜はベッドの上に座って窓越しに空を眺めていた。

 空は青く澄んでいて、世界は美しく温かかった。

 翼がなくても歩けなくても、こんな不良品の自分でも幸せになれた。

 全部、優和の言った通りだった。全部、彼のおかげだった。

 今、詩菜は幸せに包まれている。詩菜の心の中は幸せだけでいっぱいになっていた。

 今の時間は十二時半。まだ優和が来るまで少し時間がある。

 詩菜は窓の向こうに広がる美しい空を眺めたまま、昨日のことを思い出していた。

 それは昨日の夜――一週間ぶりくらいに両親が揃って、詩菜の部屋に来てくれた。

 詩菜はお礼を言った。「産んでくれてありがとう。私は今、幸せだよ」と、初めて感謝の言葉を両親に告げた。

 二人とも泣いて喜んでくれた。

 そして……手術を勧められた。

 手術……それほど難しいものではなくほぼ間違いなく成功するらしい。それでも絶対ではない。

 それに、この手術は病気を治すものではなく、延命を目的としたもの。

 今の詩菜の余命は約半年程度。それが二年くらいに延びる。その後、また手術を受ければまた少しだけ延びるかもしれない。

 所詮はその程度の話。

 詩菜は今のままで十分幸せだった。

 そして自分が長く生きれば長く生きるほどに、優和をここに縛ることになる。それに手術費だって両親には大きな負担になるだろう。

 だからこのままでちょうどいいのかもしれない。

 そんなことを考えながら詩菜は時計を見上げる。

 時刻は一時を少し過ぎていた。

「優和、遅いな~」

 わざわざ声に出して呟いてみる。

 いつもは一時には来ているので確かに遅い。

 それでも詩菜は笑顔だった。こうやって、優和を待つ一時にさえ、今は幸せを感じた。

「心配だから、電話してみよ」

 そう呟いて、財布からいくつか十円玉を取り出すと、スリッパを履いてベッドから飛び降りる。そして階段の近くにある公衆電話に向かうことにした。


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