第24話



 そう、始まりは詩だった。

 その頃、優和は詩を書いていた。

 高校を卒業して、小説家を目指し、詩を書いていた。

 詩を書いて、路上で売って、その資金で生活し、小説家を目指して頑張っていた。

 それはそんな頃のことだった……

 その日の夜も、優和はいつものように地下鉄の通路に座り込んで自分の作品を売っていた。

 自分でも自信のある作品だけ、種類は二十点くらい。どの作品にも、触れてくれた人に、元気と幸せを与えられたらと、想いと祈りを込めた作品。

 値段は決まっていない。買っていく人が、決めてくれればいい。

 だから、五百円で買っていく学生もいれば、一万円で買っていってくれるサラリーマンもいた。この売り方は意外とお金になるし、誰もが満足して買っていってくれるので、優和は気に入っている。

 そんなふうに、その日も優和は笑顔で接客しながら、自分の作品を売っていた。

 そこに一人の女性が訪れる。

 知り合いではないが、最近よく寄っていってくれる女性だ。いつも五千円で詩を買っていってくれる上客。外見は黒いスーツに身を包んだ、いかにも仕事の出来る女性といった感じの美人。年齢は優和にはよくわからない。二十代後半と言われても納得出来るし、三十代後半と言われても納得してしまうだろう。

「こんばんは。今日も素敵な笑顔ね」

「あ……ありがとうございます」

 急に笑顔でそんなことを言われ、優和は何と答えていいのかわからず、とりあえず褒められたらしいのでお礼を言っておく。

「ふふ、照れちゃったのかな? 実はね、お願いがあるんだけど。名前は優和くんでいいのかな?」

「あ、はい。鈴木優和です。本名のままです。で、お願いって?」

「あ、嫌だったら、断ってくれて構わないんだけどね。会ってあげてほしい人がいるの」

「会ってあげてほしい人?」

「ええ。病気の女の子なんだけど」

「どうして俺が?」

「優和くんの詩をプレゼントしてあげたら、会って、話をしてみたいんだって。本当はその子を連れて来らればいいんだけど。病院から出るのはあまり体によくないから」

「別に俺はいいですよ」

 深く考えることなく、そう返事を返した。

 ただ自分の作品を見てくれて、そして自分に会いたいと思ってくれている人がいるのなら自分も会ってみたいと思っただけ。

「本当? 嬉しいわ。じゃあ、いつがいいかな?」

「予定とかは何にもないんで、いつでも大丈夫ですけど」

「だったら、早速明日でも構わないかな? 明日の朝の九時にここで」

「はい。大丈夫です」

「あ、後、その子ね。ずっと、入院生活が続いてて、辛いことをいっぱい経験しているの。だから、もしかしたら、あなたの詩に反論するような酷いことを言うかもしれないけど、大丈夫かな? 出来たら優和くんの言う、世界の温かさをあの子に教えてあげてほしいんだけど」

「それは望むところですよ。そのために、詩を書いたりしてるわけですから。反対意見とかにも、慣れてますし」

 そう言って、優和は笑顔を浮かべてみせる。

「そう、ありがとう。明日は優しくしてあげてね」

「はい」

 ――翌日。

 約束通り優和は詩菜の病室を訪れた。

 そして、詩菜と出会った……


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