第19話



 彼女は空を彷徨っていた。

 そこで彼女は人を探している。

 いや……正確には人ではない。天使を探していた。

 先日、彼女が知り合いから聞いた情報によると、この辺りに誰でも幸せにしてくれる天使がいるらしい。

 会いたかった。会って、お願いしたかった。

 彼女には幸せにしてほしい人がいた。

 本当なら自分自身の力で幸せにしてあげたかった。

 そのためにだけに彼女はここに留まったのだから……

 しかし――それは叶わなかった。この二年間、出来る限りの方法は尽くしたつもりだった。それでも、無理だった。

 だから、この際誰でもいい。天使でも悪魔だっていい。

 どれだけの代償を伴っても構わない。

 彼だけには幸せになってほしかった……

 いや、自分が奪い去ってしまったであろう幸せを、彼に取り戻してほしかった……

 それだけが彼女の望み。

 それだけが彼女が今ここに在る意味だった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る