三章「ハッピーエンド」

第17話



 空ばかり見ていた。

 朝も昼も夜も、雨の日も雪の日も……

 飽くことなく、彼はいつも空ばかり見上げていた。

 そして、思う……

 この空の向こう、天国と呼ばれる場所に彼女はいるのだろうか? 死んだ者は星になるというのなら、夜空をきらめく星の中に彼女の星は在るのだろうか?

 そんなことに思いをはせ、彼はただ……今日も空を見上げていた。

 彼は以前、小説家になりたいと思っていた。

 ハッピーエンドで人に幸せを与えられるような……そんな物語を書きたかった。

 そして、彼と彼女の物語は……

 彼は思う。間違いなくその物語はハッピーエンドだったと。

 そう……きっと彼女にとってそれは幸せな終わりだったはずだ。

 だから彼は泣かなかった。

 そして彼は終わらずに続いていった。

 彼と彼女の物語は終わった。彼女の物語も終わった。

 しかし、彼女のいない世界で彼の物語だけが終わることを許されず、続いていた。

 だから彼の物語で終わったもの。それは幸せな物語ではなく、幸せそのもの。

 彼の物語の中で幸せは終わっていた。

 彼が色褪せた空を見つめるようになってから二年と十五日。彼女が死んだその日から二年と十五日後のことだった。

 彼は今日も、空ばかり見ていた。


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