第16話
「ミィッショーーンコォォーーンプリーートォウ!」
踊り場の階段の手すり。ちょうど斜めになっていないところに座りながら、リースは叫んだ。
「ふっふっふっ。俺様、ちょーーすんごい。誘惑に成功した。完全勝利! 完全試合! 逆転サヨナラ満塁ランニングホームラン、打ったのはピッチャー。勇樹の好きなサッカーならハットトリックしかもゴールキーパーで。後、PKでもない。まぁーーとにかく、そんくらいこのリース様は偉大です。ほら、愚民共崇めろ」
「リース様、めちゃめちゃすごいです」
リースの目の前を浮いていた、ポチが言いながら激しく拍手する。でも、布製の手なのでパチパチではなくポフポフなっているのはご愛嬌。
「リース、すごい。よっ、日本一。でもね、完全試合だと逆転は出来ないかな。それでもぱちぱちぱち」
リースの隣で座っている、フウも口でぱちぱち言いながら拍手をした。
「ぱちぱちぱちぱち」
さらに隣のサンは拍手をしないで、めんどくさそうに口だけでぱちぱち言っている。
「ぬぅ。また口ぱちぱちか。それなんか、バカにされてる感じで、あまりよろしくない」
「ぱちぱちぱちぱち」
さっきより大きな声でサンが言う。やっぱり、口だけで、実際に拍手はしていない。
「むっきぃぃーーー! 負けたくせに生意気だぞっ! 地にひれ伏して崇め、奉れ」
手すりの上に立ち上がって、サンのほうにビシッと人差し指を向けながら、リースは叫んだ。
「えーー。私たち別に負けてないもーん」
「誘惑に成功したんだから俺様の勝ちだろっ」
「違うよ。僕らも勇樹が本当にやりたいことが出来るように応援したんだから。カラオケから聞こえてきた音楽を、一番想いの強い歌に聞こえるようにしたのは僕らだし」
「なぬ? あれはポチがやったんじゃなかったのか……」
言いながら、ポチのほうを見る。
「ポチそんなこと出来ないです。ポチはリース様だと思ってたです」
ポチは首を横にふるふると振りながら答えた。
「ぬぅ。それでも、誘惑に成功したんだから、俺様の勝ちなのっ!」
「えーーー」
心のそこから不満そうな表情をサンはリースに向ける。
「じゃあ、両方勝ちだね。リースも誘惑に成功したし。僕らも、勇樹を幸せに出来た」
フウは嬉しそうに笑った。
「むぅ。では今日のところはそれで勘弁してやろう」
ちょっと納得のいっていない顔だが、そう言って、リースは手すりに座りなおす。
「でも、ちょっと……お父さんがかわいそうじゃなかったですか?」
ポチが言う。
「どうして?」
フウが尋ねる。
「だって……ポチたちのせいで、会社継いでもらえなくなってしまったのです……」
申し訳なさそうな、悲しそうな声。
「そんなことない。大丈夫だよ。お父さんの願いは一つ。勇樹の幸せだけなんだから。勇樹が幸せになれば、お父さんはそんなことぜんぜん気にしないと思うよ」
「うむ。だからめでたしめでたしだ」
満面の笑みをリースはポチに向ける。
「おおーー!」
ぬいぐるみ(?)だから表情に変化はない。それでもポチは最高に幸せそうな表情を浮かべて歓喜の声を上げた。
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