第14話



「うーーーむ。なんつうか、思いのほか壮大なエピソードが出てきちゃいましたよ?」

 頭を左右に傾けながら、リースはなにやら考え中のご様子。

「うん。ずいぶんと難しい感じだね。どうしよっか?」

 フウがサンに尋ねる。

「応援してあげよう!」

 迷うことなく、笑顔でサンは答えた。

「えと……どっちを?」

「どっちかじゃなくて、勇樹を。勇樹が選んだ道を応援してあげようよ」

 言って、サンは明後日の方を見ながら少し目を細める。いいことを言ったからだろうか、かなり得意げな顔をしていた。

「はわわ、やばぁいですよ、リース様。天使がなんだか、いいことを言ってるのです。ポチたちはどうするですか?」

 その、様子を見て、ポチははわわと慌てている。

「とりあえず、誘惑を続けよう。フウとサンに負けたままではいられない。なんとしても誘惑してやろう。目標は階段で会社まで行かせないこと。手段、方法は問いません。エレベーターで行かせてもいいし、ご飯、サッカー、音楽かなんかで釣って、会社に行かせなくするのもOKです」

「あい。わかりましたです。じゃあ、ポチはちょっと考えるですね。ついでにこの先の階にどんなもんがあるか見てくるです。サッカーのスタジアムでもあると助かるです~」

 あり得ないことを言いながら、ポチはふらふらとどこかへと飛んでいく。

「まだ、誘惑する気なの?」

 自分の世界から戻ってきたサンが尋ねた。

「あたぼーーよっ!」

 言って、自分の腿のあたりをパッシと叩くリースの姿は、そこはかとなく男らしい。

「じゃあ、僕らは誘惑に負けないで自分の意思で道を選んで進めるようにお手伝いしていこう」

「うん。そうだね」

 フウの言葉にサンが頷く。

 そこにポチが戻ってきた。

 空中に浮かんでいるのになぜか駆け足で、足と手をバタバタとせわしなく動かしている。急いでいるみたいだった。

「すごいです。あれですよ。ポチは天才かもしれないです。作戦ができたのです。なんとカラオケを見つけたのですよ。百階にカラオケがあったです。それで誘惑しちゃうのです」

 興奮しているのか、早口だ。

「おおー。よくやった。流石は俺様の使い魔だ。じゃあ、カラオケから勇樹の好きな曲の音でも引っ張ってこよう。では、時刻、ひといちいちはち。作戦名、カラオケ誘惑大作戦。決行であります」

「サー、イエッス、サーです!」

 ポチは短い手でピシッと敬礼する。

 こうして作戦名、カラオケ誘惑大作戦は決行されたのだった。


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