5-1-2

 ラグビー場の最寄りの駅に着くとぞろぞろと人が列になって歩いていた。コロナ禍でも元旦からこんなに来るんだーと思いながら、席に座った。周りの冷たい視線を感じた。感染対策で離れて座るようにといった感じだったけど、私は、フードを深くかぶって子供を演じていた。だから、一緒に座ってるんだと。風も冷たく、私は、持ってきたマフラーを膝に置いて、手をもんでいたら、充君は私の左手を握って自分のコートのポケットの中に入れてくれた。うれしかった。それだけで幸せ。


 試合の方は、京都代表の試合はもう終わっていて、勝ったみたい。今は、大阪代表の試合が行われているみたいだった。私は、もちろん詳しくルールも知らないので、ボールは前に投げちゃあいけない。前に蹴るのは良い。そして、パスをしながら、両側にある相手のポストの下のラインを越して地面にボールをつければ点数が入るとだけ、充君が言ってくれた。


「ねぇ ねぇ みんなおっきいね ちゃんと走っているのに、ぶつかっていって、もみくちゃにして・・ あんなのいいの? 反則じゃぁないのー? 危ないよー」


「ウン タックルと言って ボールを持っている選手にはいいんだよ 首に腕を回したりするのはダメだけどね」


「へぇー 激しいね あんなのー 充君 よく、眼の下のスリ傷ですんだよね ねぇ ねぇ 充君はどこのポジション?」


「あぁ みてろ そのうち 集まってスクラムってのを組むから その端のとこ フランカー」


「あっ 1列に並んでいるよ あの一番後ろのところ?」


「いや 違う あれは、ラインアウトと言って・・・投げたボールをみんなで取り合うんだ」


「ふーん あっ 走ったー ワァー 次の人・・あっ 掴まえられた わぁー もう くしゃくしゃ 下の人苦しくないのー ダメ つぶれっちゃうよー 息も出来ないよー」


「紗奈 もう 少し、おとなしくしろよー 皆に迷惑だよ」


「あっ そうか つい 興奮しちゃってー しばらく 黙ってるね」


 ハーフタイムなんだろう休憩時間になっているみたいだと思った時、充君がフードの中の私をのぞき込んで


「だいぶ おとなしくなったね 飽きたのか?」


「ううん なんかルールわかんなくてね あんな 危ないこと充君がやってんのかーと思っちゃってー やってると面白いの?」


「うん 思い切りぶつかっていけるからね それと仲間がいるから、みんなでトライすると最高だよ」


「そう なんとなく わかるけどなー」


 そして、後半が始まって大阪代表が勝ったみたいだけど、充君が


「別のグラウンドで、もう1試合見て言いかい? そっちも大阪代表なんだ」


「えぇー いいけど さっきも大阪代表なんじゃぁないのー?」


「ウン 高校ラグビーは大阪が実力あってさー 代表が3ツあるんだ だけど、今年はコロナの影響でどこも満足に練習出来てないから、苦しいよね」


 次の試合はグラウンドを移動して見ていたけど、やっぱり、大阪代表というのが勝ったみたいだった。


「紗奈 もう、飽きただろう? 寒いし、もう帰ろうか?」


「ううん 飽きてないよ 面白くなってきた。 だけど、充君がよかったら、一緒に行きたいとこあんねん」


「うん 俺はいいよ どこ?」


「天神さん! 勉強の神さん 一緒にお参りしょー 大学受かるように」


「そーかー 天満だなー じゃぁ いくかー でも、遅くなるぞー」


「うん お母さんがね 晩御飯も一緒に食べといでって言ってた お母さんたちも初詣に行くから、帰り遅いんだってー」


 私達は、地下鉄に乗り換えながら、少し、歩いて、大阪天満宮を目指した。私は、もう完全に充君の腕を掴まえて手を握り締めていた。そして、合格のお願いをして、私は、二人のお守りを見つけた。お揃いのミサンガ守り。少し、躊躇している充君だったけど、無理やり身につけることにしたのだ。


「ねぇ 充君 ウチ お好み焼き食べたい」


「えー ・・・ いいけどー」


「じゃぁー そーしよー 恋人同士みたいにね」


「・・・・」


 大川まで来た時、私はミサンガを付けた左手を振り上げたりして、ルンルンと歩き出した。


「紗奈 かっこ悪いからやめろよー みんな振り返ってみてる でなくても、今日のお前 目立つんだからー」


「そう だって うれしいんだものー 目立つ?」


「あぁ 見た目 可愛い」


 私は、もう一度充君の腕に絡みついていった。

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