第231話 ボスモンスター

 サーシャが気絶してから三十分程経った頃。

 サーシャは意識を取り戻したが、目を開けられずにいた。

(先程気絶した時は、リック様が膝枕をして下さいました。そして今、私の後頭部には温もりがあります。きっと今もリック様に膝枕されているはずです。ああ⋯⋯なんという至福の時間でしょうか。この先目が覚めなくても、我が生涯に一片の悔いなしです。ですがこのままですとリック様のお膝に負担をかけることになってしまいます。リック様にご迷惑をおかけすることは許されることではありません。断腸の思いですが、私は起きることにします)


 そしてサーシャは目を開ける。


「リック様! 膝枕をして頂き⋯⋯えっ?」


 サーシャは瞳を開いて驚きの声をあげる。

 何故なら眼前にいた者は、サーシャの予想していたリックではなかったからだ。


「ノノ⋯⋯さん⋯⋯?」

「サーシャお姉ちゃん! 目が覚めて良かったぁ」

「え、ええ⋯⋯ありがとうございます。ですが何故ノノさんが⋯⋯」

「サーシャを驚かせてしまったから、少しでもお詫びがしたかったみたい」

「そんな⋯⋯先程も言いましたが、気にしないで下さい。それより膝枕をして頂き、ありがとうございます」

「ううん。具合が悪かったらノノに言ってね。膝枕でも何でもするから」

「ふふ⋯⋯でしたらズーリエに到着したら膝枕をして頂いてもよろしいでしょうか?」

「うん」

「そして私が膝枕をして頂いた後、今度は私がノノさんの膝枕をしたいのですがよろしいでしょうか?」

「本当? ノノ、今まで膝枕をしてもらったことがないから楽しみ~」


 俺とサーシャは一瞬目を合わせる。

 ノノちゃんは貧民街で育ったから、母親の愛情というものを受けたことがないんだ。

 その過去の不幸を覆すことなど俺には出来ない。だけどこれから幸せにすることは出来る。


「それじゃあ、今度は俺がノノちゃんに膝枕をしてあげるよ」

「それならノノもお兄ちゃんに膝枕をしてあげるね」

「それは楽しみだ」


 こうして俺達は、ノノちゃんと膝枕の約束をしてダンジョンを進んでいくのであった。


「時間を取らせてしまって申し訳ありません。ここからは急いで攻略して行きます」


 意気込み通り、サーシャはダンジョン内にいたリザードマンマンを、次々と氷矢魔法フリーズアローで倒していく。


 リザードマンは本来は湿地帯に住んでいると言われている。

 だけどこの辺りにそのような場所はない。

 どうやら先程会ったリザードマンは、このダンジョンから出てきているようだ。

 コアを破壊すればダンジョンはなくなるため、今後この辺りでリザードマンに襲われる心配はなくなる。


 そしてしばらく進んで行くと広い空間へとたどり着いた。


「ここが最深部でしょうか」

「探知スキルで視る限り、ここより奥はないけど」

「魔物がいるんですね?」

「⋯⋯そうだけど」


 この先に何がいるか口にしづらいな。サーシャにとっては恐ろしい相手だからな。


「どんな相手でも必ず勝ってみせます」


 だけど今の気合いが入っているサーシャなら、苦手なものを克服して、この先にいる魔物に立ち向かえるかもしれない。


「とりあえずこの空間にいる魔物は一匹だけ⋯⋯来るぞ!」


 探知スキルで視ていた魔物は、俺達の気配に気づいたのか、こちらに向かってきた。


「これが最後の魔物ですか。私の魔法で⋯⋯えっ? ここ、これが魔物!?」


 先程までのやる気満々だったサーシャはどこへ行ってしまったのか、魔物の姿を認めると腰が引けてしまっていた。


「そうだけど。サーシャ、戦えそうか?」

「たたた、戦えます⋯⋯」

「無理しない方がいい。ここは俺に任せ――」

「大丈夫です。この程度の魔物に負けていたら、一生⋯⋯勝てませんから。私を信じて下さい」

「わかった」


 強くなる理由を思い出したのか、サーシャの目に闘志が戻った。


「おっきなトカゲさんだけどサーシャお姉ちゃん大丈夫?」

「大丈夫です。ノノさんとリック様下がっていて下さい」


 俺達の目の前に現れたのは大きなトカゲ。

 だがノノちゃんの言う通りの可愛いものではない。

 体調は四~五メートル程あり、おっきなより巨大という言葉の方が合いそうだった。


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