第229話 苦手なものは誰にでもある

 俺達は石で作られたダンジョンを進んでいく。


「ダンジョンって暗いね。お化けがいそう」

「お、お化け!」


 サーシャが突如大声を出し、慌てたふためく。


「ノノノ、ノノさん⋯⋯おばおばお化け⋯⋯な、なんているわけないじゃないですか」

「そうかなあ。ノノ、ズーリエで暮らしていた時、宙に浮いている白いものを見たことあるよ」

「ひぃっ!」

「「ひぃっ?」」


 サーシャが今まで聞いたことがないような声を上げる。

 どうやらサーシャは霊的なものが苦手なようだ。


「サーシャお姉ちゃんはお化けが怖いの?」

「そそそ、そんなことはありません!」


 そんなことあるだろ。今のサーシャを見て、その言葉を信じる者は誰一人いない。


「お化けなんてこの世にいませんから! ノノさんが見たのも風に舞ったシーツか何かでは? そうに決まってます!」

「そ、そうだね」


 サーシャの勢いに押されて、思わずノノちゃんは頷いているといった所だな。

 でも前世の世界ならともかく、ファンタジー色が強いこの世界なら、お化けがいてもおかしくないよな。


「大丈夫。少なくともお化けがいる気配はないから」

「少なくともですか⋯⋯リック様はいじわるな言い方をします。まるで他の場所にはいるような言い方じゃないですか」

「まあ、世界の全てを知っている訳じゃないからね」

「そこはハッキリといないと言ってください」


 そんなこと言われてもなあ。


「そ、それにしてもリック様のスキルは素晴らしいです!」


 サーシャはお化けの話が嫌なのか、話題を変えてきた。


「この暗闇の中でも、魔物の位置を把握できるなんて」


 そう。今の俺は探知スキルと暗視のスキルを二つ同時に使っている。

 そのため、ダンジョンの中でも迷うことはないし、魔物がどこにいるかもわかる。だがスキルに集中している分、咄嗟のことには判断出来なくなるため、ずっとスキルを使い続けるのではなく、進んだ距離によってオンとオフを切り替えているのだ。


「スキルのお陰だよ⋯⋯ん?」


 何だ? サーシャの肩で何か小さなものが動いたような。


「サーシャの肩に何かいるぞ」

「えっ?」


 そしてサーシャの肩にいたものは、首へ移動する。


「ひぎゃっ! なな、何ですか! お化けですか! リック様助けて下さいぃぃぃ!」


 サーシャは首筋にいる何かに驚き、こちらへと抱きついてきた。


 うっ! 胸の柔らかい膨らみがダイレクトに俺の腹部に押しつけられている。

 サーシャは、自分が魅力的な女の子だということをわかっていないのだろうか。


「いやだいやだ! 何とかして下さいお願いします!」

「落ち着けサーシャ! そんなに抱きつかれたら何とかしようにも」


 おそらくサーシャにくっついてるのは虫か何かだ。俺は抱きしめられた状態で、サーシャの背中を見てみる。

 すると騒動の原因は、四本足と長い尻尾を持つ小さなトカゲだった。

 お騒がせな奴だ。

 俺は右手で素早く手を伸ばし、トカゲを捕獲する。


「サーシャ。もう大丈夫だ」

「ほ、本当ですか?」

「可愛いね。お兄ちゃん私にも触らせて」


 どうやらノノちゃんは爬虫類の類いは怖くないようだ。

 まあ貧民街にいたらもっと嫌な虫とかたくさんいるからな。Gとか。

 俺はノノちゃんにトカゲを渡す。


「リック様ありがとうございました。このご恩はけして忘れません」

「大げさだなあ。気にしないでいいよ」


 律儀なサーシャらしい言葉だ。


「それにしても私の首にはいったい何が⋯⋯」

「これだよ」


 ノノちゃんが手に持ったトカゲをサーシャの顔の前に持ってくる。

 そういえばサーシャって虫とか爬虫類も苦手だったような⋯⋯


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 だがサーシャはトカゲを見せられても何も反応を示さない。

 どうやら苦手だった虫や爬虫類は克服したようだ。


「ほら? 可愛いよね⋯⋯あっ!」


 トカゲはノノちゃんの手から逃れるため、尻尾を切った。

 そして飛びはね、サーシャの顔に着地するのであった。


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