第228話 絢爛華麗

 サーシャのロッドから、いくつもの氷の矢が放たれる。

 十、二十⋯⋯約三十本の矢がリザードマンへと向かっていった。

 以前炎矢魔法フレアアローを使っていた時は十数本だったから、あれから成長したのか、それとも氷の原理を理解することで威力が上がったのか、はたまたトラウマを克服したのかわからないが、成長していることは確かだ。


「グギャアァァッ!」


 サーシャの攻撃を食らった五匹のリザードマンは、悲鳴をあげる。

 しかし残りのリザードマンは氷の矢をかわすか、右手に持った盾で防い⋯⋯いや、盾が凍りついてさらに右腕を侵食している。


「ギャアッ!!」


 リザードマンは予想外の出来事に混乱していた。


「もう一度! 氷矢魔法フリーズアロー


 そしてサーシャからさらに追撃の一撃が放たれる。

 狙いは右腕が凍りついた四匹のリザードマンだ。

 混乱しているリザードマンは、なす術もなく氷の矢を胸部に食らい、その場に崩れ落ちていく。

 残りは十一匹。

 だがリザードマンは三回目の魔法発動は許さない。

 仲間が殺られている間に、サーシャの元へとたどり着き、周囲を包囲していた。


「お兄ちゃん! サーシャお姉ちゃんが!」

「わかってる」


 だけどサーシャは何も言っていない。

 譲れない何かがあったとしても、サーシャは冷静な判断が出来る子だ。

 もし本当に窮地だった場合、必ず助けを求めてくるはず。

 しかし心配は心配なので、すぐに魔法が使えるように魔力を集めておく。


「グギャアァァッグギャアッ!」


 リザードマン達はサーシャを取り囲んで勝った気でいるのか、笑みを浮かべているように見えた。

 だけどそれは大きな間違いであったことにすぐに気づく。


「これで終わりです。クラス5・輝細氷魔法ダイヤモンドダスト


 サーシャが魔法を唱えると空気中の水蒸気が細氷となり、辺り一面を氷の世界へと変えた。

 光輝く氷のつぶてがリザードマンに襲いかかる。

 するとリザードマンは徐々に動きが鈍くなり、やがて氷の像へと変貌するのであった。


「サーシャお姉ちゃんすごいすご~い!」


 ノノちゃんがはしゃいだ様子でサーシャに抱きつく。


「ふふ⋯⋯ありがとうございます⋯⋯⋯⋯⋯⋯ですが、まだまだです」


 サーシャがお礼を述べた後、小声で言った言葉が聞こえてしまった。

 どうやら今の結果でもサーシャは満足していないらしい。

 だけどサーシャの戦い方は見事だった。

 弱いクラスの魔法で数を減らし、接近してきた所を強い魔法で仕留める。

 おそらく囲まれることも想定していたのだろう。


「そんなことはないよ。あっという間リザードマンを倒したじゃないか」


 俺はサーシャに自信を持ってもらうために、あえて小声に対して返答をする。


「そ、そんなことありません。エミリアならそれこそ一瞬で終わらせると思いますから」

「サーシャの魔法だってすごいよ。まとめて十一匹も倒したんだから」

「ありがとうございます」


 笑顔に少し陰りがある。

 サーシャが心から喜んでいる訳じゃないということが、俺にもわかった。

 確かにエミリアならリザードマンに突撃して、瞬く間に倒してしまいそうだ。

 それとやはりサーシャは、エミリアのことをすごく意識しているようだ。

 剣士と魔法使い、そもそも役割もジャンルも違うので、そこまで気にする必要はないと思うけど。

 サーシャのエミリアに対する劣等感は、そう簡単にはなくならそうだ。


「それではダンジョンへと向かいましょう」


 そして俺達は平原を越えて森に入ると、一つの洞窟を見つけることに成功した。


「これがダンジョンなんだあ。ノノ初めて見た」


 俺とサーシャは勇者パーティーにいた頃、何度か経験をしている。

 ダンジョンで一番注意しなくてはならないのが、暗闇への対処だ。

 暗いと何も見えないし、逆に明るくしているとこちらの姿が丸見えになるため、奇襲攻撃を受ける可能性がある⋯⋯と以前は考えていた。


「ここからは俺が先頭で、ノノちゃんが真ん中、サーシャは一番後ろでいいかな? もちろん魔物が現れたらサーシャに任せる」

「うん。わかった」

「承知しました」


 ノノちゃんは初めてのダンジョンだ。一番安全な場所にいてもらうのがいいだろう。


 そして俺は異空間から出したたいまつに火を点け、ダンジョンへと足を踏み入れるのであった。

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