第225話 同行者は?
トントン
「どうぞ」
朝方、自室のドアがノックされたので、俺は部屋に入るよう促す。
「お兄ちゃんおはよう」
するとドアが開き、元気よく挨拶をしたノノちゃんの姿が見えた。
いつも通り可愛らしい笑顔だ。これはもしかして⋯⋯
「悪夢は見なかった?」
「うん」
「それは良かった」
どうやら水竜の腕輪が効果を発揮したようだ。
フェルト公爵には殺されかけたけど、この件に関しては本当に感謝しかない。
「昨日私とママが見てたけど、怪しい感じはなかったわよ」
「ふふ⋯⋯娘とノノちゃんた一緒に寝ることが出来て、幸せな時間だったわ」
「ノノちゃんのことを見てくれて、ありがとうございます」
「いいのよ。エミリアも昔は⋯⋯ママ。か、雷が怖いでしょ。仕方ないわから一緒に寝て上げるって、ベッドに潜り込んできたのを思い出したわ」
「三年前の話でしょ!」
三年前ってけっこう最近じゃないか。
ネコの件といい、雷の件といい、ドSなのに⋯⋯
「可愛らしい所があるじゃないか」
「かわっ! 何言ってるのよ!」
「素直にそう思っただけだよ」
エミリアの顔が真っ赤になってしまった。
「と、とにかくこれでノノとリックが一緒に寝る必要はなくなったということね!」
「そう⋯⋯だね」
ノノちゃんは先程まで笑顔だったのに、エミリアの言葉を聞くと悲しそうな表情で俯いてしまった。
「ノノちゃんどうしたの?」
「うん⋯⋯悪い夢を見なくなるのは嬉しいけど⋯⋯お兄ちゃんと一緒に寝ることが出来なくなるのは寂しいなって」
「ノノちゃん⋯⋯」
「その⋯⋯たまにでいいから、お兄ちゃんと一緒に寝るのはダメ?」
ノノちゃんが不安そうな表情をして、上目遣いで問いかけてくる。
「ダメじゃないよ」
可愛い妹の頼みをだ。断るわけがない。
それに俺も昨日の夜、久しぶりにノノちゃんの温もりがなくて、少し寂しく感じた。
「寂しくなったらいつでも部屋においで」
「うん! ありがとうお兄ちゃん!」
そしてノノちゃんは抱きついてきたので、俺は抱きしめ返す。
「その時は私にも声をかけなさいよ。し、仕方ないからリックが狼にならないように私が見張ってて上げるわ」
「ふふ」
「な、何ママ。その笑みは」
「いえ、エミリアは素直じゃないなと思っただけよ」
「わ、私は素直よ! この世界の誰よりも!」
確かに自分のやりたいことに対して素直ではあるな。
「そういうことにしてあげるわ」
こうして原因はわからなかったが、ノノちゃんの悪夢を取り除くことが出き、俺の中の不安は一つなくなるのであった。
そしてノノちゃん達と別れた後、俺は執務室へと行き一筆したためる。
これは皇帝陛下へ送る書簡で、子爵家を俺が継ぐという内容だ。
さすがにこのボロボロになったドルドランドを見捨てることは出来ない。
もし次の領主がゴルドやデイド、クーサイのような奴が領主になったら、ドルドランドはさらに滅茶苦茶になってしまう。
エミリアかサーシャが領主になってくれれば安心だが、二人はあくまでも領主代理だ。今この帝国では女性の領主は一人もいない。公爵家の令嬢である二人が領主になることはないだろう。
だけど俺も素直に領主になる気はない。
聞き入れてもらえるかどうかわからないけど、いくつか条件を出させてもらった。
それが通らなかった時は⋯⋯また考えるとしよう。
後は皇帝陛下からの返事が来る前に、一度ズーリエへと戻ろう。
母さん達に領主になることを伝えるのと、ドワクさんに蒸留機を作ってもらえるか聞かないといけないからだ。
トントン
そして皇帝陛下への書簡を書き終えた後、執務室の部屋がノックされる。
「どうぞ」
「失礼します」
俺が入室を許可するとサーシャ、エミリア、ノノちゃん、リリ、テッドが部屋に入ってきた。
「みんなどうしたんだ」
「リックはズーリエに戻るんでしょ? 誰を連れていくつもりなの?」
「それはノノちゃんとリリを連れていこうと思っているけど」
すぐ戻ってくるつもりだし、テッドは置いていってもいいだろう。
ノノちゃんも母さん達に会いたいと思っている。それに悪夢がなくなったから、俺の側にいなくてもズーリエに残ることもできるはずだ。
リリはザガト王国に狙われているから、側にいて守ってあげなくちゃならない。だけどここで予想外の言葉が上がる。
「私⋯⋯ここに残る」
「えっ?」
「少し疲れた」
慣れない人間社会だ。リリが疲れるのも無理はない。
ザガト王国のことは気になるけど、ここは街中だし、エミリアとサーシャがいればうまくやってくれるだろう。
「大丈夫よ。パパにリリの護衛をするよう頼んでおくわ」
「私もお父様にリリさんを守るようお願いしておきます」
「それは心強いな」
その二人がいるなら、どのような相手がきてもリリを守ることができそうだ。
「それじゃあズーリエには俺とノノちゃんで――」
「ちょっと待ちなさい」
「少しよろしいでしょうか」
会話の途中でエミリアとサーシャが割り込んでくる。どうやら二人は俺の意見に納得していないようだ。
「私もリックについて行くわ」
「私も同行させて頂いてもよろしいでしょうか」
二人の声が合わさる。それはどちらも自分を連れていけという要望だった。
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