第224話 悪夢の対策

 そして俺達は食事を終えると、公爵一家は就寝するために用意した部屋へと向かっていく。


「エミリア、この後あなたの部屋に行ってもいいかしら。久しぶりに少し話さない? 同じ部屋で寝るのもいいわね」

「私もサーシャの部屋に行ってもいい? ドルドランドでの生活を聞いてみたいわ」

「別にいいけど、でも私はリックの部屋で寝ているから」

「お話だけでしたら大丈夫です。ですが今私は、リック様のベッド寝ていますので」


 げっ! エミリアとサーシャが、事実だけどとんでもないことを言い始めた。

 しかも何故か顔を赤くしている。

 この状態を見て、公爵一家が何を想像しているのか、容易にわかる。


「エミリア、あなた中々やるわね」

「サーシャ、あなたのこと見直したわ。これでリックくんは公爵家のものね」

「追放容疑も晴れているし、後の問題は⋯⋯」


 皆の視線がイシュバル公爵とフェルト公爵へと向かう。


「娘と一緒に寝ている⋯⋯だと⋯⋯」

「しかも二人一緒に」


 ああ⋯⋯やはり誤解しているな。このままだと防波堤となっているエミリアとサーシャがいても俺に襲いかかってきそうだ。


「これには事情がありまして⋯⋯」

「娘と寝るのにどんな事情があるんだ! まさか遊びだったなんて言うつもりじゃないだろうな!」

「答え次第では私の魔力が火を吹きますよ」


 次に話す言葉で、俺の生死が決まってしまいそうだ。

 大丈夫。少し説明するのが難しいけど、ちゃんとした理由があるんだ。

 俺は言葉を間違えないように口を開こうとするが、それは一人の人物によって遮られた。


「ノノもお兄ちゃんと一緒に寝てるんだよ」

「なん⋯⋯だと⋯⋯」

「君は娘達だけではなく、こんなに小さな娘にまで手を出していたのか!」

「ち、違います! これには事情があって!」


 ノノちゃんが最悪なタイミングで声を上げてしまった。

 もうダメだ。二人は頭に血が昇っているし、おそらく俺が何を言っても聞く耳をもってくれないだろう。


「この変態が! 貴様の血は何色だあ!」

「私の最強の魔法を食らわせてあげましょう」


 イシュバル公爵は剣を手に、フェルト公爵は強大な魔力を右腕に集めている。

 この二人が暴れたら一瞬で領主館が破壊されてしまうし、何より確実に殺される。

 俺は何とかこの場を収める方法を考えていると、四つの影が公爵達の前に立ち塞がった。


「やめなさい!」

「これ以上リック様に狼藉を働くなら、いくらお父様でも許しませんよ」

「別に妻を何人取ろうと、エミリアを幸せにしてくれれば問題ないでしょ」

「それにリックくんは事情を話そうとしていますよ。それも聞かずに問答無用で攻撃するなんて。公爵家の名が泣いてます」

「「ぐっ!」」


 二人は妻と娘の言葉に反論出来ないようだ。

 このチャンスを逃したら俺のターンは来ない。


「実はノノちゃんは――」


 俺はノノちゃんの悪夢について話をする。


「その話は本当か」

「ええ」

「なるほど⋯⋯悪夢ですか。そして一晩中見張っていましたが、何かをされた様子はないと」


 先程までは娘や妻に頭が上がらない父親だったが、俺の話を聞いて二人は鋭い目つきに変わる。


「何かご存知ですか?」

「いや、俺は知らないが、こういうのはフェルトの得意分野だろ?」

「それだけの情報で何とかしろとは、無茶を言いますね」

「あなた、ノノちゃんのために何とかして上げて下さい」

「お父様、お願いします」

「やれやれ。妻と娘に頼まれては何とかするしかありませんね」


 フェルトさんは腕を捲ると、身につけていた水色の腕輪を外す。


「これは⋯⋯悪いものから護ってくれる腕輪です。これを身につけて寝てみて下さい」


 ノノちゃんがチラリと俺の方に視線を送ってきた。

 俺はその視線に対して頷く。

 よく知らない人から物を貰っちゃいけないと思い、確認してくれたのだろう。


「ありがとう! じゃなくありがとうございます」

「はは⋯⋯別に敬語を使わなくてもいいですよ」


 ノノちゃんは腕輪を受け取る。


 それにしてもこの腕輪にどんな効果があるか気になるな。

 俺は鑑定を使って腕輪を視てみる。

 するととんでもないものが俺の目に入った。


 水竜の腕輪⋯⋯水竜の牙を元に作られた腕輪。身につけると効果は弱いが、火属性、スキル、魔法、魔の力に対して耐性を持つことができる。品質A、価値がつけられる代物ではない。


 価値がつけられないって⋯⋯これは火の宝玉並みのレアアイテムということか!

 それを簡単にあげてしまうとは。それだけフェルト公爵は妻と娘に頭が上がらない⋯⋯ではなく、大切に思っているのだろう。


「こんなに高価な物を本当に頂いてもよろしいのですか?」


 俺が言葉を発するとフェルトさんがこちらをジッと見てくる。


「なるほど。やはり陛下の言う通り、君は何か特別な力を持っているようだね。この腕輪の価値がわかるのが、何よりの証拠だ」


 やはり俺のことを皇帝陛下から聞いていたのか。それなら俺のことがある程度バレていても不思議はないな。


「水竜の腕輪ですよね。こんなものをどこで入手したんですか」

「昔、陛下やイシュバル達と竜に戦いを挑んだことがあってね。その時に手に入れたんだ」

「ちなみに俺も持ってるぜ」


 イシュバル公爵が腕を捲ると赤い腕輪が見えた。

 さしずめこれは、火竜の腕輪って所か。どれだけ竜と戦っているんだ。

 竜と言えば、この世界の最強種と呼ばれている存在で、簡単に勝てる相手ではない。

 けどよくよく考えてみると、強者と戦うのが大好きな皇帝陛下なら、竜に戦いを挑んでもおかしくないな。


 ちなみにイシュバル公爵がしている腕輪に鑑定を使ってみたけど、何も表示されることはなかった。おそらく身につけているから腕輪の効力が発動しているのだろう。

 やはりこの腕輪が先程の戦いで、俺の鑑定を無効化したものと考えて間違いなさそうだ。


「それでは、本日はノノちゃんはリックくんとは別に寝るということね。でも腕輪の効力が利かず、悪夢を見てしまう可能性があるから、誰かが一緒の方がいいわ。もしノノちゃんが良ければ私が」

「それならノノちゃんは私と一緒に寝ましょうか」

「し、仕方ないわね。ここはこのエミリア様が一緒に寝て上げるわ」

「いえ、私がノノさんと夜を共に致します」


 ここでノノちゃんの壮絶な取り合いが始まる。


「何はともあれ、エミリアがこのすけこましと一緒に寝ることがなくなって良かったぜ」

「そうですね。娘の貞操を守ることが出来て何よりです」


 公爵達もこの結果に満足そうだ。

 そして話し合いの末、ノノちゃんはアンジェリカさんと寝ることが決まり、そして夜が明けるのであった。

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