第221話 公爵家で一番力があるのは?
「それで? 公爵領を放っておいてここまで何をしにきたの? まさか私達に会いにきたなんて言わないわよね」
「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」
公爵達は目を泳がせ黙っている。
えっ? まさか娘に会うためにわざわざドルドランドまで来たのかよ!
「まあ九割はそうだな」
「キモいんだけど」
「お父様。心配して頂けるのは嬉しいですけど、私ももう大人です。そろそろ子離れして下さい」
公爵達は膝から崩れ落ち、ガーンと音が見えるくらいショックを受けている。
だけど娘を心配する気持ちは、少しは理解できる。
「の、残り一割は何ですか?」
「それはもちろん」
「不埒な者を成敗するためだよ」
イシュバル公爵とフェルト公爵が、こちらに視線を送ってきた。
娘に拒絶されて可哀想だから、話題を変えるため聞いてしまったが、聞かなきゃ良かったよ。
「パパ、これ以上余計なことを喋ると」
「わかっていますね?」
「「す、すみません」」
しかし娘達に一括され、公爵達は小さくなる。
何とも情けない話だが、公爵達がいる時は、サーシャとエミリアの側にいよう。
「だがここに来たのは別に俺達だけの意見じゃ――」
「きゃあ!」
「⋯⋯きゃあ」
イシュバル公爵が話している最中に、突然絹を裂くような悲鳴と危機感を感じない悲鳴が聞こえてきた。
「この子すごく可愛いわ!」
「こっちの子もミステリアスな雰囲気で、とても美人さんね」
どうやらノノちゃんとリリが、背後から御婦人達にいきなり抱きしめられたようで、思わず声を出してしまったようだ。
ノノちゃん達の悲鳴が聞こえたので一瞬周囲を警戒したが、二人を抱きしめている人物に心当たりがあったので、すぐに緊張感を解いた。
「ママ!」
「お母様!」
そう。この二人はエミリアとサーシャの母親であるアンジェリカさんとソフィアさんだ。
まさか公爵家夫婦が揃ってドルドランドに来るとは。領地の方は大丈夫なのか心配してしまう所だけど、エミリアもサーシャも、優秀な兄と姉がいるから大丈夫か。
「ママがなんでここに?」
「もちろんあなた達会いたかったからに決まってるでしょ」
「私もママに会えて嬉しいわ」
アンジェリカさんとソフィアさんはノノちゃんとリリさら離れ、娘達の元へと向かう。
そしてエミリアはアンジェリカさんと、サーシャはソフィアさんと抱擁をかわす。
それを恨めしそうに見る父親達。
まあ母親達は抱きしめられ、父親達は飛び蹴りと平手打ちだったからその気持ちはわからなくもない。
しかも父親達と母親達の言ってることは同じなのに、片方はキモいで片方は嬉しいだもんな。
思春期の娘とは難しいものだ。
「「リックくん!」」
そして娘達と一通り話終えた母親達は、今度はこちらに向かって走ってきた。
「あ、どうも。お久し――」
だが俺は全ての言葉を言い終える前に、二人から抱きしめられて喋ることが出来なくなる。
「久しぶりね! あら? 少し顔つきが変わったわね。幼さの中にカッコよさも加わって言い感じだわ。サーシャが押し掛けて迷惑かけてない? たまにこの子は大きな失敗をする時があるから心配で心配で。けどリックくんが側にいてくれれば安心ね」
「リックくん、私に何も言わずにズーリエに行くなんて酷いわ。それにエミリアとの婚約も破棄になっているし」
アンジェリカは早急に婚約破棄を進めたイシュバルを睨む。
「でもこれでリックくんはフリーってことよね? 見境なく青年の命を奪おうとする人なんて見限って、新しい恋に生きようかしら」
「アンの言う通りだわ」
そう。今の言動からもわかるように、実はアンジェリカさんとソフィアは初めて会った時から、何故か俺のことを気に入ってくれていた。
エミリアの婚約者になった頃は、どういう風に他の貴族と話せばいいかわからなかったので、二人の存在はとてもありがたかった。
しかし娘達と母親達の態度に、イシュバル公爵とフェルト公爵は益々俺のことが嫌いになったという反面もある。
「マ、ママ? 何を言ってるの?」
「本気じゃありませんよね」
「半分冗談よ」
えっ? 半分本気なの!?
二人ともさすがは公爵家の夫人だということもあり、美しいからドキドキしてしまう。そして何より、俺はさっきからアンジェリカさんとソフィアさんに抱きしめられままだからな。
それにしてもアンジェリカさんとソフィアさんの豊満な胸を見て一つ思い浮かんだことがある。
サーシャはソフィアさんの遺伝子を見事に受け継いでいるけど、アンジェリカさんの遺伝子は⋯⋯いや、何も言うまい。
「エミリアはドルドランドに来ているということは、またリックくんに婚約――」
「あら、リックくんがフリーになったならうちのサーシャにもチャン――」
アンジェリカさんとソフィアさんが何かを言いかけたが、娘達の手によって口を塞がれた。
「マ、ママ! 何を言い出すの!」
「お母様! その件は内密でお願いします!」
エミリアとサーシャは慌てた様子で顔が真っ赤になっていた。
「二人共どうしたんだ?」
「べ、別にリックには関係ないわよ!」
「この件に関しましてエミリアに同意し――きゃあっ!」
突然サーシャの顔の近くに蜂が飛んできて、サーシャは驚いて俺に抱きついてきた。
「も、申し訳ありません」
「いや、大丈夫か」
「⋯⋯はい」
サーシャは上目遣いで俺を見上げる。
ち、近い⋯⋯けどサーシャはいきなり現れた蜂に恐怖し、動揺しているため突き放す訳にもいかない。
「我が娘ながら中々やるわね」
しかしソフィアさんの発言により、俺とサーシャは慌てて距離を取る。
「べ、別にこれに深い意味はありません」
「確かにそうね。でもそこで抱きつくのが父親でも母親でもない所が⋯⋯」
「ただのアクシンデントです!」
「そうですよ。偶々近くに俺がいただけで」
俺もサーシャは援護しようと声を上げた。
だが何故かノノちゃんとリリ以外の皆から、冷たい視線を向けられる。
えっ? なんで?
意味がわからないぞ。
それになんでサーシャからも冷たい目で見られなくちゃならないんだ。
「サーシャも前途多難ね」
「エミリアも大変だわ」
「な、なんでそこで私が出てくるのよ」
「わかっているくせに」
俺だけがわからないのか?
「エミリアどういことだ?」
「わ、私も何のことかわからないわよ」
エミリアはわからないという割には目が泳いでおり、動揺しているように見える。
「実はエミリアはね⋯⋯」
「ワーワーッ!」
アンジェリカさんが、何故俺に冷たい視線を向けられたか、教えてくれそうだったが、突然エミリアが叫びだし邪魔してきた。
「エミリア静かにしてくれ」
「うるさいわね! 私はママとパパと話があるからリックは先に街に戻ってなさい」
「そうですね。不本意ですがエミリアの意見に賛成します」
「わ、わかったよ」
どういうことか気になったが、エミリアだけでなく、サーシャからも言われてしまったので、俺はノノちゃんとリリを連れて領主館へと戻るのであった。
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