第211話 相手に思考を渡す時は気をつけよう
「創聖魔法で何か新しいスキルを付与してみる?」
女神様は相手にスキルを渡せると言っていた。信頼度が必要とのことだが、俺とサーシャなら問題ないはずだ⋯⋯たぶん。
サーシャが俺のことを嫌いだったら無理だけど⋯⋯いや、そんなことはない。大丈夫だと⋯⋯思う。
「いえ、リック様申し出は嬉しいのですが、今は自分の力だけで強くなりたいと思っています。エミリアが努力で強くなっているのに私だけ楽をする訳にはいきません」
ライバルだからこそ正々堂々か。
普段仲が悪くなければ、本当に良い関係なんだけどな。
「わかった。じゃあアドバイスだけさせてもらってもいいかな」
これは最初に頼まれたことだから問題ないだろう。
「お願いします」
俺はサーシャの許可を得たので右手に魔力を集める。
「えっ? 魔法?」
強力な魔法を使うには魔力の大きさ、その魔力を集束して放てるか、そして強い魔法をイメージ出来るかが重要だ。
今回サーシャには強力な魔法のイメージを教える。
だけどこの世界の人に、前の世界の化学を説明するのは難しい。そのため、俺の口で説明するのではなく、俺の頭の中のイメージをそのまま伝えるのがいいだろう。
だが普通ならそのようなことは出来ない。
しかし創聖魔法なら!
造りたいスキルを頭の中に浮かべ、魔力を高めていく。
「いける! 思考付与!」
「思考付与⋯⋯ですか」
クラス5相当のMPで新しいスキルを造ることに成功した。これはラフィーネさんからもらった交信の腕輪を参考にしたのだ。ただこのスキルは言葉だけではなく、映像のイメージも乗せることができる。
後はスキルを使えば⋯⋯
俺は思考付与のスキルを使用する。
「もしかして創聖魔法で新しいスキルを作製されたのですか!」
「そうだよ」
「ですが言葉から考えますと、相手に思考を与えるスキルとお見受けしますけど私には何も⋯⋯」
確かにこのままでは、何の意味ももたないスキルだ。だがこうすれば。
俺はサーシャの両手を握る。
「えっ? あの⋯⋯その⋯⋯リリリ、リック様!?」
(しまった! いきなり手を握るなんて女性にすることじゃなかった! でも思考付与のスキルは、相手に触れないと効果がないからな)
「そ、そうでしたか! 取り乱してしまい申し訳ありません⋯⋯って、えっ? 今、リック様は喋っていませんでしたよね。もしかしてこれが⋯⋯」
(そう。思考付与のスキルだ。これから俺の魔法のイメージを伝えるから、サーシャも参考にしてみて欲しい)
「わかりました⋯⋯」
了承してくれた後、サーシャは何故か顔を赤くし、俯いていた。
(何か気になることでもある?)
「その⋯⋯一つだけよろしいでしょうか?」
(いいよ)
「この思考付与スキルは、リック様のお考えが私に転送されるということで間違いないでしょうか?」
(サーシャの言う通りだ)
「⋯⋯逆に私の考えがリック様へと伝わる訳ではない。という認識で大丈夫でしょうか」
(サーシャの考えで間違ってないよ)
「そ、そうですか⋯⋯」
サーシャは何故か胸を撫で下ろす。
(もしかして何か知られたくないことがあるのかな? まあ年頃の女性だから秘密の一つや二つくらいあるものか。だけどこれは俺も気をつけないとな。サーシャの指は白くてスベスベで、とても綺麗だなんて考えていると伝わってしまうからな)
「うぅ⋯⋯」
(ん? サーシャの顔がみるみると赤くなっているぞ)
「サーシャ、大丈夫か?」
「は、はい⋯⋯」
「どうした? 何かあったのか?」
「な、何かってその⋯⋯」
サーシャの顔が益々赤くなっていく。
「リック様のせいです⋯⋯」
「お、俺のせい!?」
サーシャは消え入るようなか細い声で応える。
「どういうこと?」
「それは⋯⋯リック様が私の指が⋯⋯綺麗って⋯⋯」
「ん? 俺はそんなこと言って⋯⋯あっ!」
俺は慌ててサーシャの指から手を離す。
「ははっ⋯⋯」
苦笑いしか出来ない。さっき自分で気をつけないといけないって考えておきながら、サーシャに俺の思考が伝わっていた。
ど、どうするか⋯⋯なんとも言えない空気になってしまったぞ。
(そ、それじゃあ強く魔法を使うイメージだけど、物質と空気中にある酸素が結びつくことを酸化と言って――)
この後俺は、気恥ずかしい空間から脱却するためにサーシャの手を取り、火と氷の原理について説明するのであった。
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