第205話 ドルドランドの長い夜(13)
「お兄ちゃん何を作るの?」
「三百人程いらっしゃるので、何を作ればいいのか⋯⋯」
サーシャが迷うのも仕方ない。
これだけの大人数の食事を作るのは一苦労だろう。
だから半分は自分達でやってもらうつもりだ。
「俺がカニを解体するから二人は野菜を切ってくれないか」
「野菜を? わかりました。それでリック様は何を作るのでしょうか」
「それは――」
俺はこんなこともあろうかと、創聖魔法で生み出していた物を二人に渡す。
そして三十分程経った頃。
「みなさん今回は街を救って頂いてありがとうございました。これはそのお礼になります。どうぞ召し上がって下さい」
俺は切り分けたカニをいくつもの大皿に乗せ、ウィスキー侯爵やエミリア達の前に置く。
「これはもしや先程の⋯⋯」
「キングクラブの身ね!」
エミリアの目が輝いている。
昔から美味しいものには目がなかったからな。
ヨダレが見えるのは気のせいだと思いたい。
「切り分けたので、好みの焼き加減で食べて下さい」
「これって私達も食べていいんですか!?」
「もちろんです。お酒もあるのでたくさん飲んで下さい」
俺が兵士達の分も用意していると口にした瞬間、周囲から歓声が沸き起こる。
今回の荒くれ者確保には、ここにいる全員のおかげで何とかなった。遠慮なく食べてほしい。
「兵士達にも分け与えるとは」
「おかしいですか?」
「いや。兵士達の士気は大切だ。だが近来部下を大切にしない貴族が多くてな。リック殿の行動に感心しただけだ」
「ありがとうございます」
やはりウィスキー侯爵は、数少ない心ある貴族の一人のようだ。
「ウィスキー侯爵! あんた紛らわしいのよ」
「これはこれはエミリア様。ご活躍は――」
「そんなおべっかはいらないわ。それより何よ! ドルドランドは荒れている。周辺の領主も迷惑している。あなた達のような若者
「少し内容が変わっているような⋯⋯」
「気のせいよ」
気のせいじゃない。明らかな捏造が入っている。
確かウィスキー侯爵はあなた達のような若者
「あれは君達を奮起させるために言った言葉だ。ドルドランドを支配する気など私にはないよ」
やはりそうだったか。
荒くれ者達がウサン州から来ていたと聞いた時から、ウィスキー侯爵は何となく悪い人ではないような気がしていた。
「ま、まあ私は最初からあなたが敵じゃないってわかっていたけど」
「そうだったか?」
ウィスキー侯爵と領主館で会った後、とっちめてはかせてやるって滅茶苦茶怒っていたけどな。
「そ、そうよ! それより何かまた料理が来たわ」
話を誤魔化したな。どもっていたことから、どうやらエミリアはウィスキー侯爵と会った時のことを覚えているようだ。
そしてノノちゃんとサーシャ、何人かの兵士達が大きな鉄鍋といくつかの材料持って現れた。
「何よこれ。鉄鍋に何かスープが入っているわね。材料は他に白菜と魚とネギとキノコ?」
「ノノ達もわからないんだ。お兄ちゃんから材料を切るように言われただけで、後のお楽しみだって」
「確かにスープからは良い匂いがするけど」
時間がなく、大勢に食べてもらうならこの日本料理が最適だ。
本当だったら豆腐もほしい所だけど今日は我慢しよう。
「これから俺が作り方を見せるから、みなさんも真似て下さい」
そして俺はこれらの材料を使ってあるものを作る。
すると食欲をそそるような匂いが、辺りに充満するのであった。
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