第204話 ドルドランドの長い夜(12)
キングクラブを異空間に収納した後、南門から街へと入り、急ぎ貧民街へと向かう。
火の手も消えているから問題ないとは思うけど、キングクラブのようなイレギュラーな存在がいないとも限らない。
まあエミリアがいるから、どんな敵が現れても蹴散らしてくれると思うが⋯⋯いや、むしろやり過ぎて大変なことになってしまうかもしれない。これは本当に急いだ方がいいな。
俺は全速力で貧民街へと駆ける。
そして貧民街に到着すると、兵士達に捕縛された荒くれ者達の姿が見えた。
ざっと見た感じどうやら死亡者はいないようだな。
エミリアもなんとか自重してくれたみたいだ。
「リック様!」
「お兄ちゃん!」
俺を呼ぶ声が聞こえる。するとサーシャとノノちゃんがこちらに駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか! 南の方ですごい大きな音がしましたが!」
「お兄ちゃん怪我はない!?」
二人共俺の身体をさわり、怪我がないか確認している。
「大丈夫。どこも
嘘は言ってない。身体に傷はないけど頭痛がするだけだ。
我慢できる痛みだし、わざわざ心配させることはないよな。
「それではあの音はいったい⋯⋯」
「ああ、それは突然魔物が襲ってきて。けどもう倒したから大丈夫だ」
「ほら、私の言った通りでしょ」
そして背後からエミリアとリリが、ゆっくりとこちらに向かってきた。
「リックなら大丈夫だって言ったでしょ。それにサーシャが心配してリックの元へ行っても、足手まといになるだけよ」
「そ、それは⋯⋯」
「与えられた任務を放棄して来られても迷惑なだけだわ」
きつい言い方だけどエミリアの言うことは正しい。
サーシャには酒を配り、万が一飲まなかった奴の対処と、ウィスキー侯爵の兵士達を眠った荒くれ者達の場所へ案内する役目をお願いしていた。
それにもし誰か来ていたら、魔王化したキングクラブから守れたかどうかわからない。結果論だがエミリアの判断は間違っていなかった。
「それで? どんな魔物が現れたの?」
「大きなカニが突然襲ってきたからびっくりしたよ」
「「「カニ!?」」」
そりゃあ驚くよな。少し離れた所に湖があるけど、まさかこんな陸地でカニに襲われるなんて俺も思わなかったよ。
「何だか美味しそうな敵ね」
「カニが襲ってくるなんてどういう状況でしょうか」
「ノノ、カニさんを見たことないけど美味しいの?」
今思い出したけど確かキングクラブは高級食材だったはず。だが魔王化したカニを食べても平気なのか? これは鑑定して見ないとわからないな。
「それじゃあ見る?」
「見て上げるわ」
「見せて頂けますか」
「みたいみた~い」
「⋯⋯⋯⋯」
俺はリリ以外のリクエストに応えるため、異空間からキングクラブを取り出す。
「えっ? ちょ、ちょっと大きすぎない?」
「こんな大きな魔物をリック様一人で⋯⋯」
「すごいすご~い! カニさんっておっきいけどかわいいね」
「いや、本当のカニはもっと小さいから」
ちょっと勘違いしているけどノノちゃんが喜んでくれて良かった。
そして俺はキングクラブに鑑定を使用する。
キングクラブ⋯⋯海に生息する大型のカニ。地中に生息することが多く捕らえることが難しいため、高級食材として扱われる。身は甘くほっこりとしており、口に入れると極上の味が広がる。また甲殻は硬く、武器や防具として適している。品質A、金貨5,000枚の価値がある。
金貨5,000枚! レア素材じゃないか! それにキングクラブから魔王化が消えている。後、食べても大丈夫的なことが説明文に書いてあるな。それなら⋯⋯
「キングクラブはとても美味しいから、今日の作戦成功を祝ってみんなで食べようか」
「いいわね」
「兵士の方達の労をねぎらうのに良い方法だと思います」
「ありがとう。それじゃあサーシャ手伝ってくれないか」
「承知しました」
「ノノも手伝う~」
そして俺達は領主館へと戻り、料理の準備を始めると夜が明けるのであった。
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