第202話 ドルドランドの長い夜(10)

 名前:キングクラブ(魔王化)

 性別:雄

 種族:甲殻類

 レベル:92/200

 称号:カニの王・魔王の祝福

 力:1321

 素早さ:532

 耐久力:2321

 魔力:632

 HP:2333

 MP:362

 スキル:力強化C・スピード強化C・魔力強化C・聴覚強化+・物理攻撃耐性B・魔法攻撃耐性B・ウォーターカッター・ウォーターバリア・地中移動・隠密

 魔法:なし


 魔王化⋯⋯だと⋯⋯

 当たって欲しくない予感が当たってしまった。

 あの巨大カニは、ウィスキー侯爵が知っている個体とは違うという話から、魔王化しているんじゃないかと疑っていた。

 そして耐久力がかなり高い。並の攻撃ではキングクラブの殻は突き破れそうにないな。物理と魔法の耐性スキル、それにウォーターバリア。

 おそらくさっき炎嵐ファイアストーム創聖魔法ジェネシスを防いだのはウォーターバリアだ。炎系の魔法は効かないと考えた方がいいだろう。

 だがカニ、水系の魔物とくれば弱点は決まっている。


 俺は皇帝陛下と戦った後、いつか必ず必要になると思ってある魔法を造っていた。その魔法がとうとう日の目を見る時が来たようだ。


「クラス6・稲妻ライトニングボルト創聖魔法ジェネシス


 上空に雷雲が現れ、キングクラブに向かって荒々しい稲光が降り注ぐ。

 雷は水系の敵に大ダメージを与えることは、ゲームでは常識だ。


 今度こそ! と思ったがキングクラブは俺の魔法が放たれた直後、なんと地中に潜り、稲妻をかわしたのだ。

 確かに【地中移動】というスキルがあったが、まさかかわされるなんて思ってもいなかった。

 もしかしたら【聴覚強化+】で大気の異常を瞬時に察知したのかもしれない。

 だが今の攻撃でウィスキー侯爵達が街に入る時間は稼げた。

 後はこのキングクラブを倒すだけだ。


 キングクラブは地中に潜り、気配を隠している。

 探知のスキルを使えば居場所はわかる。だけど頭に入ってくる情報が多過ぎて、咄嗟の判断が出来なくなるため、このまま相手の出方を待つしかない。


 静寂が辺りを支配する。

 地面から来るのは確実だが、見えない敵が襲ってくるのは恐怖でしかない。

 俺はキングクラブの気配に集中する。

 すると僅かに足元が揺れたので後方へ回避すると、勢いよく右手を上げてキングクラブが地面から出てきた。


「危なかった」


 もう少し遅かったらさっきの兵士見たいに挟まれる所だったぞ。


「だがチャンスだ!」


 俺は目の前にいるキングクラブの足を狙って剣を振る。

 キングクラブは避ける素振りがない。俺の攻撃など受けても大したダメージにならないと考えているのだろう。


 しかしその油断が命取りだ!


 俺は足の関節の部分を狙う。

 するとキングクラブの一本の足が切り落とされ、無色透明の血が流れる。


 やはりいくら硬いとはいえ、関節部分は脆いようだ。

 このまま全ての足を狩り取ってやりたいが、相手ももう油断はしないだろう。


 その証拠に⋯⋯


「ヨクモ⋯⋯ヤッタナ⋯⋯」


 たどたどしい口調だが、キングクラブが言葉を発してきた。

 やはり魔王化している魔物は人の言葉を喋るようだ。


「オマエ⋯⋯ゼッタイニユルサナイ」

「最初に攻撃してきたのはそっちなのにひどい言い草だな」

「⋯⋯⋯⋯」


 自覚があるのか黙ってしまった。

 だが黙るのは聞きたいこと聞いてからにしてくれ。


「どうしてこんな所にいるのか教えてくれないか。ザガト王国の差し金か?」

「⋯⋯⋯⋯」


 だんまりか。元々口数が少ないのか、魔王化した魔物はあまり喋らないのかそれとも⋯⋯


「フェニシアの命令で⋯⋯」

「フェ、フェニシアサマ⋯⋯モ、モウヤメテ⋯⋯」

「フェニシア様?」


 どうやらキングクラブはフェニシアのことを知っているようだ。だけどフェニシアの名前を聞いて震えだしたぞ。まさか実験台として逆らえないように調教でもされたのか?

 とにかくこの様子では、フェニシアに逆らってまで情報を話すことはなさそうだ。

 それならもうこの巨大カニには用はない。

 人に仇なす魔物は始末させてもらう。


 俺は改めて剣を手にキングクラブと対峙する。

 そして足をもぐために接近し、関節を狙って剣を振る。

 しかしキングクラブは再び地中へと潜って、俺の攻撃を避けてしまう。


「くっ! またかくれんぼか。だがお前の攻撃は俺には当たらないぞ」


 俺はキングクラブの攻撃を察知するためにも、聴覚強化のスキルを使用する。

 これで少しの異変も耳で感知し、キングクラブの攻撃を避けやすくなるはずだ。


 俺は地中のキングクラブに集中し、再び現れるのを静かに待つ。

 するとキングクラブから、命を一瞬で狩り取る攻撃が迫ってくるのであった。


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