第201話 ドルドランドの長い夜(9)
俺が魔法を唱えると、先頭を行く兵士達の前に風の盾が展開される。
そしてその直後に、カニの口からまるでレーザーのように水が放たれた。
風の盾がカニの攻撃から兵士達を守る。
「くっ! 何とか間に合ったか!」
兵士達にダメージはない。
だが今の攻撃で風の盾は無惨にも砕け散ってしまった。
冗談じゃない。創聖魔法で作った盾だぞ!
それがただの一撃で消失してしまうなんて。
だがその威力は疑いようがない。何故なら今の攻撃でカニから風の盾までの地面が、鋭利な刃物でスパッと切られていたからだ。
横幅は狭いが底が見えないほど切断されている。
もしこの攻撃を食らったら、一瞬で絶命することは間違えないだろう。
どうやらこの巨大カニは水を使う能力があるようだ。そしてどうやったのかわからないが、その水を使って俺の炎を防ぎ、さらには加圧した水を噴射してウォーターカッターのような物を飛ばすことできるらしい。
ウォーターカッターといえば前世の世界で、硬度十の固さを誇るダイヤモンドでさえ切断できる。
炎を防ぐ水、剣を防ぐ身体、防御の盾を容易く消失させるウォーターカッター⋯⋯とてもじゃないが他の人達を守りながら戦える相手じゃない。
「あれはキングクラブか! だがあのような個体は初めて見る。私の知っているものより倍以上の大きさだぞ!」
ウィスキー侯爵が知っているものとは違うものか。何だか嫌な予感がする。
だけど今はその予感を確認する前に、やることをしないと。
「ウィスキー侯爵! ここは俺が引き受けます! 侯爵は兵士達を連れて荒くれ者達の捕獲を!」
「リック殿! 今までの汚名を返上するためにも我々も戦います!」
クーサイの兵士達から頼もしい声が上がってくる。
巨大カニの力を見てなお立ち向かうか。どうやら彼等にはまだ正義の心が残っているようだ。
しかし⋯⋯
「ウサン州の兵士達諸君の気持ちもわかるが、ここはリック殿に任せるとしよう。我々は明らかに足手まといだ」
「ウィスキー侯爵⋯⋯くっ! 承知しました」
ウィスキー侯爵から伝えて頂いて助かった。兵士の人達も俺のような若造に指示されても、納得しないだろうからな。
「我らは街の中にいる荒くれ者達の対処に向かうぞ! 急げ!」
そして兵士達とウィスキー侯爵、クーサイ侯爵は南門へと向かった。
だがその行動を巨大カニは許しはしない。
巨大カニは先程と同じ様に息を吸い込む仕草をする。
そして背を向けている兵士達を狙って、ウォーターカッターを発射した。
「さっきの攻撃が!」
「かわせ! かわせ!」
兵士達は巨大カニの地面を裂く攻撃を見ているせいか、恐怖の表情を浮かべる。
もしウォーターカッターを食らったら、いったい何人の命が犠牲になるか⋯⋯だがやらせない!
俺は左手に魔力を込める。
「させるか! クラス2・
ウォーターカッターが兵士達に向かっていく。
だが風の盾が、巨大カニの好きにはさせない。
しかし風の盾は先程と同じ様に一撃で消失してしまった。
やはり巨大カニの攻撃は侮れない。このまま防戦一方になることは好ましくないな。
俺は動体視力強化と反射神経強化、それと視界をよくするために暗視スキルを使い、カゼナギの剣を手に巨大カニへと駆ける。
すると巨大カニは右手を振りかぶり、上から俺を押し潰すようにハサミを繰り出してきた。
「速い!」
風を引き裂くような一撃が迫る。
だが動体視力と反射神経を強化した俺なら見切れるスピードだ。
俺は巨大カニの攻撃に対して飛び上がる。
そして隙だらけになった頭部目掛けて剣を振り下ろした。
「くぅぅっ! 硬い!」
攻撃を当てることは出来たが、殻を破るには至らない。
剣で巨大カニを貫く処か逆に手を痛めてしまった。
これは倒すのに骨が折れそうだ。
とりあえず何か弱点がないか、そして気になることがあるので俺は巨大カニに向かって鑑定を使う。
「これは⋯⋯」
俺は巨大カニの鑑定結果を見て、思わず驚きの声を漏らすのであった。
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