第196話 ドルドランドの長い夜(4)

 俺は小高い丘の上から気配を消しながら、ウィスキー侯爵とクーサイ侯爵の話を聴覚強化を使い聞いていたのだ。


 やはり黒幕はクーサイ侯爵だったか。初めから信用出来ない男だと思っていた。

 悲しいことだが、帝国内の貴族は性格に難がある者が多い。いくら友好的に接してきたとしても信用出来るものではない。それに何よりゴルドの友人というだけで信じるに値しない人物だ。


 このままだとウィスキー侯爵は始末されてしまう。

 数少ない心あるウィスキー侯爵をここで失う訳にはいかない。


「クラス2旋風フウァールウインド創聖魔法ジェネシス、クラス2烈火レイジングファイア創聖魔法ジェネシス


 俺は2つの創聖魔法を自分自身にかけてスピードとパワーを強化し、ウィスキー侯爵の小隊の上へと飛び降りる。

 そしてクーサイ侯爵の中隊がウィスキー侯爵に向かって炎の矢を放つ。

 ウィスキー侯爵の小隊は取り囲まれているため、逃げ場はない。


 それなら!


「放て烈風!」


 俺はカゼナギの剣に魔力を込めて、暴風を巻き起こす。

 すると炎の矢は暴風によって全て消失するのであった。



「な、何だ! 何が起きた!」


 クーサイは突然の出来事に驚きを隠せない。


「炎の矢が消えた⋯⋯だと⋯⋯」


 だがそれはウィスキーも同じで、何が起きたのか理解していなかった。


「ウィスキー侯爵、大丈夫ですか?」

「き、君はリック殿。まさかこれは君がやったのか?」

「ええ」

「さすが噂にたがわぬ実力だな」


 ん? どうやらウィスキー侯爵は先日あった、ズーリエが魔物に襲撃された件を知っているようだ。


「まさかゴルドの息子にそのような芸当が出来るはずがない。確かリックくんは無能だから勇者パーティーを追放されたのだろ」


 そして逆にクーサイは、俺のことを詳しく知らないようだ。


「だが今はそのことはどうでもいい。リックくん⋯⋯ウィスキーは無法者達を使ってドルドランドを陥れようとしている。そして自作自演で無法者達を追い払い、功績を得ようとしているのだ!」

「なっ! 嘘を言うな! それは貴様が企んでいることだ!」

「無法者達はアールコル州から来ている。これはウィスキーが手動で行っている証拠だ。さあリックくん⋯⋯ウィスキーを捕らえてこっちに寄越したまえ」


 互いに自分が味方だと口する。

 やれやれ。悪党は本当に往生際が悪いな。

 それなら真実を述べて、クーサイの化けの皮を剥いでやるだけだ。


「クーサイ侯爵。今街で暴れている者達は、ウサン州から来たと調べがついてますよ」

「そ、それは何かの間違いだ! きっとウィスキー侯爵が私に罪を擦り付けようと画策したに決まっている!」

「ちなみに先程までお二人が話していた内容は俺も聞いていました。往生際が悪いですよ」

「なっ! それなら演技する必要はないな。リックよ、これから私が何をするかわかるか?」

「わかりますよ。真実を知った俺を殺すつもりですよね?」

「その通りだ! 者共! ここにいる奴らを全て始末しろ!」


 クーサイが号令をかけると一斉に兵士達が襲いかかってかきた。


「リック殿申し訳ない。私怨にそなたを巻き込んでしまった」

「ウィスキー侯爵大丈夫ですよ。すぐに終わらせますから」

「それはどういう――」


 俺はウィスキー侯爵が言葉を終える前に行動に移す。


 クーサイは指揮官を気取っているのか、兵士達より前に位置している。

 それなら今から動けば間に合うはずだ。


 俺は全速力で駆ける。

 すると常人では考えられない程のスピードで、一瞬にしてクーサイの元までたどり着いた。


「なっ! バカな!」


 驚いているクーサイに向かって蹴りを放つ。

 クーサイは予想だにしていなかった俺の行動になす術もなく、まともに蹴りをくらい宙を舞う。

 そして地面を転がり止まった場所は、ウィスキー侯爵の目の前だった。


「⋯⋯と、捕らえろ! クーサイを捕らえるのだ!」


 一瞬の出来事でウィスキー侯爵は呆気に取られていたが、すぐに我に返り、兵士達に捕縛命令を出す。


「な、何をしている! 早く私を助けろ!」


 そしてクーサイも急ぎ自分を救出するように命令を下す。

 このままだと兵士達が争い、死傷者が出てしまうかもしれない。

 それは俺が望む展開ではないので、俺は左手に魔力を込めて魔法を放つ。


「クラス5炎嵐ファイアストーム創聖魔法ジェネシス!」


 青い炎の嵐が上空へと向かっていく。そしてその嵐に向かってカゼナギの剣を使い、力を解放する。


「放て烈風!」


 すると炎の嵐が空を覆い、その熱風が地面にいる兵士達に降り注いだ。


「な、何だ今のは⋯⋯」

「炎が空を埋め尽くしていたぞ」

「あのような魔法をこちらに放たれたら⋯⋯」


 兵士達は青い炎の嵐に恐怖し、動きを止める。


「もし、これ以上歯向かうというのなら⋯⋯」


 俺は再び左手に魔力を込め、その姿をクーサイの兵士達に見せる。


「わ、わかりました。投降します」


 するとクーサイの中隊は皆地面に膝をつき、武器を捨てるのであった。

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