第192話 ロリコンじゃない!

 朝食の席にて。


 食堂には二つの対象的な空気が流れていた。

 一つはエミリアとサーシャが作る険悪な空気。そしてもう一つはノノちゃん、リリ、テッドが作り出す和気あいあいとした空気だ。


 エミリアとサーシャは黙々と食事を取り、たまに目が合うとすぐに目を反らし、殺伐としている。

 朝目が覚めたら、嫌いな相手と抱き合っていったんだ。気持ちはわからなくもないけど、それをこの食事の場に持ち込まないで欲しい。

 下手に介入するとこちらが痛い目を見る確率が高そうなので、見なかったことにしよう。


 ここはノノちゃん達の会話に入って、楽しい朝食を取るのがベターだな。

 俺は視線と耳をノノちゃん達の方へと向けて、会話に入るタイミングを探す。


「ねえねえ、二人とも聞いて聞いて」


 ノノちゃんが嬉しそうにリリとテッドに問いかける。


「ノノ⋯⋯ご機嫌」

「何か良いことでもあったのか」

「あったよ。お兄ちゃんがノノこと大好きだって言ってくれたの」


 ん? 何だか雲行きが怪しいことを話していないか? まさかとは思うが⋯⋯


「良かったね」

「リックはロリコンっぽい所があるからな。ノノのことが好きでもおかしくはないな」

「そうなの。お兄ちゃんはロリコンなんだよ」


 ノノちゃんは満面の笑みを浮かべながら、俺がロリコンだということを宣言した。


 ちょっ! この子は何を言っちゃってくれてるの!


「ロリコン? なにそれ?」


 どうやらリリはロリコンの意味がわからないようだ。

 良かった。

 せっかく少し打ち解けてきたのに全てがパーになる所だった。

 だがこの後ノノちゃんが、言わなくていいことを口にしてしまう。


「え~とねえ⋯⋯ちっちゃな女の子が好きで、ゆがんだれんあいかんじょうを持っている人だよ」


 リリはノノちゃんの言葉を聞いて、こちらに絶対零度の視線を向けてきた。


「いや、これは⋯⋯」


 違うと叫びたいけど、もし否定したらノノちゃんを悲しませてしまうことになる。

 今の俺は口を紡ぐことしか出来なかった。


「リックは⋯⋯変態なのね」


 終わった。リリの俺に対する好感度は地の底まで落ちたようだ。


「おいおい、そんなにリックを苛めるなよ」


 だがこの時予想外の場所から援護の声が上がった。

 まさかテッドが俺を庇うなんて夢にも思わなかったぞ。

 俺は少しだけテッドのことを見直した。


「お前らのような子供にはわからないかもしれねえけどな、男はみんな変態なんだよ」


 テッドは俺を庇うどころか、リリと同じように変態扱いをしてきた。


「俺はリックの気持ちはわかるぜ。俺も胸が小さな奴が好きだからな」


 テッドはチラリとエミリアに視線を送る。

 そして俺に向かってサムズアップをしてきた。


 いや、俺もテッドと同類みたいな風に言うのやめてくれない?

 俺が否定出来ないからと言って好き勝手言いやがって。


 とにかくこれはノノちゃん達の会話に入るのは危険だな。

 そのため、俺は一人寂しく、黙々と朝食を食べるのであった。


 朝食が終わった後。


「よおリック。たまには男同士、女の前では語れないことでも談義しねえか。例えばエミリア様のスタイルのこととかよお。俺はあのなだらかな胸が堪らなく好きでロリコンのお前ならわかってくれるだろ?」


 わからない。

 確かにエミリアはスレンダーでスタイルがいいが、俺は断じてロリコンじゃない!


 とりあえずこのままテッドと無意味な話をしていると、周囲から本当にロリコンだと思われてしまう。

 この領主館には俺の仲間達だけではなく、兵士やメイドがいるんだ。そこから噂が広がれば、俺はこの街の住民からもロリコン扱いされてしまう。そうなったらもうこのドルドランドから出ていくしかない。


「俺はこれからやることがあるからまた後で」

「ちょっ! まてよ!」


 そして俺はテッドから逃げるように食堂を出ていく。


 やれやれ。このロリコン疑惑を何とかしないとな。もちろんノノちゃんのことは大好きだが、俺はロリコンではない。

 これはノノちゃんにちゃんと説明をしないと、大変なことになりそうだ。

 俺は執務室に向かいながらロリコン対策を考えていると、前からリリが歩いてきた。

 領主館に来てから忙しくてリリと話が全然出来ていない。

 俺はここでの暮らしが不便じゃないか聞こうと、口を開こうとするが⋯⋯


 ササッ


 何故かすれ違いざまにリリが俺から距離を取り始める。


「えっ? どうしたんだ?」

「メイドが⋯⋯ロリコンの側にいると⋯⋯子供が出来るって」

「子供!?」


 なぜそうなるんだ! ちょっとみなさんロリコンに対する扱いひどくない?

 だがロリコンを庇えばさらに俺の立場が悪くなる。

 とにかくこのままだとまずい。予想していた通り、あらぬ噂が広がってしまう。


「え~とそのメイドさんはどこにいるのかな?」

「あっち」


 俺は光の速さでリリが指差す方へとダッシュする。

 そしてメイド達だけではなく、この屋敷にいる者全てに俺のロリコン疑惑について釈明をするのだった。

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