第193話 ドルドランドの長い夜(1)

 ロリコン疑惑を晴らした後。

 俺は執務室に込もり、樽に入ったエールに創聖魔法をかけて、ウイスキーへと造り変えていた。

 さすがに百近くの樽にクラス5の創聖魔法を使うのは骨が折れる。

 だが一週間の時間があったため、俺は休みながらウイスキーを造ることが出来た。

 そしてドルドランド襲撃が行われる日がやってきた。


 領主館の執務室にて。


「御命令通り、少しでも問題を起こした者は捕らえておきました」


 兵士は報告を終えると執務室を出ていく。


「続々と人が来られますね」

「潰しても潰しても現れるゴキブリのようだわ」


 俺は当日の手間を少しでも減らすために、問題を起こした怪しい奴らを捕らえるよう兵士に指示をしていた。

 エミリアの言うとおり、これがゴキブリなら容赦なく潰してやる所だけど、実際にまだ何の罪も犯していない者をどうにかすることは出来ない。


「もう怪しいと思った奴を手当たり次第捕縛したらどうかしら」

「その気持ちはわかりますけど、そのようなことをすれば批判の声が上がってしまいます。それを次期領主の方がしてしまうのはどうかと⋯⋯」


 失望されるだろうな。

 前領主はゴルドだったため、民は次期領主には期待しているはずだ。

 それにもし捕縛しても、それだけの人数を収納するスペースがない。

 一応手は打ってあるけど、現状ではどうすることも出来ない。


「めんどくさいわね。でもあの男をギャフンと言わせるためには、仕方ないか」


 このまま荒くれ者達を捕らえてもは、知らぬ存ぜぬをするつもりだろう。

 今後ドルドランドに何かされるのも困るので、ここで現場を抑えて決着をつけるのが望ましい。


「セバスさんから得た情報を元に、エミリアはリリとサーシャはノノちゃんと一緒に配置についてほしい。荒くれ者達から街を守ってくれ」

「私にかかれば余裕よ」

「承知しました」


 リリとノノちゃんを一人にしておく訳には行かない。特にリリは黒き者に狙われている。だがエミリアが側にいれば大丈夫だろう。


「おいおい。俺のことも忘れるんじゃねえぞ」

「忘れていませんよ。テッドさんもよろしくお願いします」

「任せろ。だがそれにしてもこの一週間大変だったぞ。旨そうなアルコールの匂いをプンプンさせて」

「飲まないで下さいよ」


 先程最後の一つをウイスキーにしたばかりなので、この部屋にもウイスキーの樽が一つある。そしてテッドの言うとおり、確かにこの場にはアルコールの匂いが漂っていた。


「ちょっとくらい飲んでも⋯⋯」

「バカ! を飲んだらどうなるかわかってるの!」

「す、すみません」


 テッドがウイスキーに手を伸ばしかけたが、エミリアに怒られて手を引く。


「上手く作戦が終われば、少し融通しますから」

「本当か!?」

「ええ」

「よっしゃー! 必ず成功させてみせるぜ!」


 どうやらテッドもかなりの酒好きだったようだ。まあこの作戦が成功すれば酒の一本や二本くらい好きに飲んでくれ。


「ちょっと待ちなさい。それなら全てが終わったら私にも飲ませなさいよね」

「リック様、私にもご褒美を頂けると嬉しいです」


 そしてテッドの様子を見て、エミリアとサーシャも酒を要求してきた。


「え~と⋯⋯それは⋯⋯」


 セバスさんから二人が酔っぱらうと、とんでもないことになると聞いている。ここは頷いてしまうと余計なトラブルに巻き込まれてしまいそうだ。


「いいわよね?」

「いいですよね?」


 二人が圧を込めて俺からイエスの言葉を引き出そうとしている。

 だけど俺としては、出来れば予測できるトラブルは回避したいので、取る行動は一つだ。


「前向きに検討致します」


 俺は政治家のように、絶対行動に移さない言葉を残して、この部屋から離脱した。


「あっ! 逃げたわね!」

「待って下さいリック様!」


 そして作戦を決行する時間まで、俺は二人から逃げるのであった。



 太陽が沈み、月が昇る時間。


 この日のドルドランドは異様な空気に包まれていた。

 普段なら人気がなくなる時間だが今日は違う。通りは人の行き来が多く、一部の者達は殺気立っているように見えた。

 俺は街の外へと出る。

 そして幾分の時が過ぎ、夜の闇が更けた頃。

 突然ドルドランドの街から火の手が上がる。

 すると先程まで暗闇に支配されていました街が、赤く照らされるのだった。

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