第172話 天使の寝顔
「無理ね。あれは絶対に追いつけないわ」
エミリアが諦めの言葉を洩らす気持ちはわかる。
目視したスピードも尋常じゃなかったが、実は一瞬見えた時に鑑定スキルを使ってみたけど、とんでもない能力だった。
エメラルドユニコーンの鑑定結果はこうだ。
名前:エメラルドユニコーン
性別:雄
種族:聖獣
レベル:51/80
称号:スピードキング・祝福を授けしもの
力:232
素早さ:9321
耐久力:126
魔力:621
HP:192
MP:532
スキル:スピード強化S・感知能力
魔法:なし
素早さが桁違いだな。スキルのスピード強化もSなので追いかけて追いつけるものじゃない。
それに
「リック、どうするの? 罠でも仕掛けて捕まえる?」
もし仮に捕獲出来たからといって、角を取ることは出来ない。エメラルドユニコーンの意思で角を譲り受けないと、消滅してしまうそうだ。
だから店主から角を受け取る方法も聞いていたのだが⋯⋯
「対策はある。エメラルドユニコーンは、き⋯⋯美しい乙女の膝で眠ると言われているんだ」
「乙女の膝?」
「そうだ。エメラルドユニコーンは乙女の膝で眠ると、お礼に角を授けてくれるらしい」
本当はもう一つ条件があるけど、エミリアが失敗した時に激昂しそうだから黙っていよう。
「それならその役目は私がやるしかないようね。だって美しい乙女は私しかいないんだから」
「そ、そうだな」
確かにエミリアは美しいという点では問題ないだろう。美しい点だけは⋯⋯
「ここは私に任せて、二人は離れた位置で好きに過ごしていなさい」
「エミリアお姉ちゃんならきっとエメラルドユニコーンから角をもらえるよ」
成功を信じて疑わないノノちゃんに、エミリアは失敗するなんて言えない。ここは奇跡とまぐれと偶然と偶々を期待してエミリアに任せるとしよう。
「それじゃあ俺達は向こうに行ってるよ」
「大船に乗ったつもりで待ってなさい」
俺とノノちゃんは自信満々のエミリアを置いて、この場から離れる。
「お兄ちゃん、あそこにお花がいっぱい咲いてるよ」
ノノちゃんが走り出した方向には小高い丘があり、そこには白い花が広がっていた。
「わ~い」
ノノちゃんは喜びの声をあげながら、花を避けて地面に寝っ転がる。
「ノノ、お花に囲まれて寝るのが夢だったんだ」
なんとも可愛らしい言葉に、思わずほっこりしてしまう。
ノノちゃんはこのまま穢れることなく、純粋に育って欲しいものだ。
「夢が叶ったなら良かったよ」
ノノちゃんはこれまで辛い人生を送ってきたんだ。これからは幸せな日々を過ごしてもらいたいな。
「これも全部お兄ちゃんのおかげだよ。ノノを助けてくれて、家族になってくれたんだもん。ノノ、今すごく幸せだよ」
「はは⋯⋯俺はノノちゃんのお兄ちゃんだから、ノノちゃんを幸せにするのは当然だよ」
もう二度とこの笑顔を曇らせたりしない。俺はこの美しい花畑の前で改めて誓う。
「お兄ちゃんはノノを幸せにしてくれたから、今度はノノが⋯⋯お兄ちゃんを⋯⋯しあわ⋯⋯せに⋯⋯あれ? 何だか⋯⋯眠く⋯⋯」
「寝ていいよ」
どうやら暖かい日差しの中、花畑で横になって眠気が襲ってきたようだ。
そしてノノちゃんはスースーと寝息を立てながら寝てしまった。
「寝つきがいいな。疲れていたのかな?」
それにしても⋯⋯天使の寝顔だな。
この世界には女神が実在するから、天使がいてもおかしくない。きっとノノちゃんみたいな容姿と性格をしているのだろう。いや、ノノちゃんが天使に違いない。
「何だか幸せそうに寝ているノノちゃんを見ていると、俺も夢の世界へと吸い込まれしまいそうだ」
ん? だけどおかしくないか? 俺は別に疲れてはいない。いくらなんでも突然のこの眠気はおかしい。
「まさか攻撃を受けているのか?」
しかし周囲を見渡しても誰かがいる気配はない。そうなるとこの眠気はいったい⋯⋯。
少なくともここに来るまでは何もなかったはずだ。この場所に何かあるのか? ここにあるのは綺麗な白い花だけ⋯⋯花?
もしかしてこの花に秘密があるのか?
鑑定スキルを使って確かめてみるか。
この場所はエミリアから距離が離れている。もしエメラルドユニコーンが
エミリアの側にいたとしても、感知されないかもしれない。いや、そもそもエミリアでは、エメラルドユニコーンから角を受け取ることが出来ないから関係ないな。
俺は地面に咲く白い花に向かって鑑定を使う。
ネムネム花⋯⋯清らかな泉の側で咲く、眠りを引き起こす花。しかし花から発せられる匂いでは効力は弱い。ただし煎じたものは無味無臭で効果は大きく、一口飲めば魔物を眠らすことも出来る。品質A、銀貨1枚の価値がある。
なるほど。このネムネム花の匂いでノノちゃんは寝てしまったのか。
しかしこの花⋯⋯もしかして使えるかもしれない。
それに銀貨一枚の価値があるから持っておいて損はないだろう。
俺はノノちゃんから離れた場所にあるネムネム花を、異空間に収納していく。
さて、後は可愛い妹が安眠できるようにしないとな。
俺はノノちゃんの横に寝っ転がり手を繋ぐ。
この悪夢もいつまで続くのか。
一度や二度の悪夢ならただの偶然で片付けられるが、毎日となると別だ。ノノちゃんのステータスに異常はない。
誰かに悪夢を見せられていると考えるのが必然だ。しかしその痕跡が全く見られないのだ。
ノノちゃんの幸せのためにも、必ず解決しなくちゃいけない問題だ。
俺は何か良い案がないか思案するが何も思い浮かばず、いつの間にか夢の世界へと向かうのであった。
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【読者の皆様へ】
4月19日【狙って追放~】が書籍化されました。
本屋で見かけることがありましたら、手にとって頂けると幸いです。
ネット投稿より、エミリアやルナが色々パワーアップしています。
カクヨム様のネット投稿も定期的に行いますので、今後とも何卒よろしくお願い致します。
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