第171話 死の世界?

 うっ! ここはどこだ?

 目を開けると眼前には澄んだ青い世界があった。そして小魚の群れが勢いよく泳いでいる。

 ここは海の中?

 そうだ思い出した⋯⋯俺は魚なんだ。この広い世界を自由に進むことが出来る。誰も俺の歩みを止められない。

 だけど何だか少し息苦しくなってきた。何故だ? エラ呼吸が出来ていないのか?

 い、息が⋯⋯このままだと俺は溺死してしまう。おかしいぞ⋯⋯何故魚の俺が水の中で苦しまなくてはならないんだ。

 それは俺が⋯⋯俺が人間だからだ!


 俺はあまりの息苦しさに夢の世界から現実に戻ってきた。

 そしてどういう状況なのかわからないが、今俺は水の中に顔を突っ込んでいるようだ。

 やばい⋯⋯意識が遠退いてきた。このままだと本当に死んでしまう!

 俺は空気を求めて、無我夢中で身体を起こす。


「ゲホッ! ゲホッ!」


 新鮮な空気が急激に肺の中に満たされ、俺は思わず咳き込んでしまう。


「お兄ちゃん大丈夫!」


 ノノちゃんが不安そうな声をあげ、俺の背中を擦ってくれる。


「だ、大丈夫だよ」

「よ、よかったあ。お兄ちゃんが全然動かないからノノ、すごく心配したよ」

「そういえば俺はエミリアの蹴りを食らって⋯⋯」


 俺は辺りを見渡すと目の前には泉が広がっていた。

 いつのまにこんな所まで来たんだ? それに何故俺は水の中に⋯⋯


「何で俺は泉の中に顔をつけてたのかな?」

「そ、それは⋯⋯」


 ノノちゃんは言い淀んでいる。何か口にしづらいことでもあるのだろうか。


「エミリアお姉ちゃんが気絶したお兄ちゃんを見て、水の中に顔を落とせば目が覚めるって⋯⋯」

「いや、それひどくない?」


 下手をすればそのまま窒息死するぞ。いくらドSのエミリアだからと言ってやりすぎじゃないか?


「ひどくないわよね。リックは私のあられもない姿を見たんだから」


 背後からエミリアの声と共に殺気を感じたので、俺は後ろを振り向こうとする。だが突然後頭部を捕まれその行動は阻止された。


「こ、こっちを見るなぁ! 早く異空間から私の服を出しなさい!」


 エミリアの焦った声が聞こえる。

 もしかしてまだ服がボロボロのままなのか? 殺されかけたし、これは復讐のチャンスだな。


「エミリアお姉ちゃんは下着姿だから早く出してあげて!」


 顔を真っ赤にしたエミリアの姿か。少し見てみたい気はする。

 だがノノちゃんのお願いとさすがに外で下着姿は可哀想なので、俺は素直に異空間からエミリアの荷物を取り出す。


「ちょっとそこで待ってなさい! 絶対に後ろを振り向いたらダメだからね!」


 エミリアは荷物を奪い取ると慌てた様子で服を着始める。

 自分と同世代の女の子が背後で着替えをしているかと思うと、何だかドキドキするな。


「もういいわよ」


 そして二分程時間が経った頃、エミリアは服を装備していた。

 少し残念だが仕方ないか。下着姿でエメラルドユニコーンを探す訳には行かないからな。

 それとさっきから気にしないようにしていたが、ノノちゃんが頬を膨らませて、怒った様子でこちら見てくるから少し怖い。


「お兄ちゃん、女の子の肌をジッと見ちゃダメなんだよ」

「はい⋯⋯」


 可愛い妹に怒られてしまうと何も言えなくなってしまう。これもロリコンの称号を持っているせいなのか。


「ごめんなさい」

「ふ、ふん⋯⋯仕方ないから許してあげるわ。寛大な私に感謝することね」


 俺は溺死させられそうになったのに。

 何だか釈然としないが、これ以上蒸し返してもエメラルドユニコーンの探索に支障が出そうなので、黙っている。


「さっきの出来事は記憶から消すこと。へ、変なことを考えたら許さないわよ。いいわね?」

「わかってるよ。全部忘れればいいんだろ?」

「その通りだけど何だか釈然としないわね」


 どうしろっていうんだ。

 自分の美しい肢体が記憶に残らないなんて許さないという、エミリアのプライドの問題なのか?

 乙女心は複雑で俺にはよくわからないな。


 とにかくこれで目的地に到着した訳だが、どうやってエメラルドユニコーンを探すか。

 店主が言うにはエメラルドユニコーンは、スキルや魔法の感知能力が高いため、迂闊に使用すると逃げてしまう可能性がある。

 それにエミリアとノノちゃんに伝えてないことがもう一つあるんだが⋯⋯


「お兄ちゃん、エミリアお姉ちゃん。あっちの方がキラキラ光って綺麗だよ」

「あっち?」


 俺とエミリアはノノちゃんが指差す方向に視線を向けると、確かに何かが光るのが見えた。


「泉の反射?」

「いや、あれはエメラルドユニコーンだ!」


 泉を越えた向こう側、三百メートル程の所に一頭の馬の姿があった。


「姿が見えたのなら捕えてみせるわ」

「待てエミリア!」


 ダメだ。エミリアが行くと

 しかしエミリアは俺の静止を振り切り、走り出してしまった。

 そしてエメラルドユニコーンはエミリアの存在に気づいたのか、逃げ出す。


「私から逃れられると思ってるの?」


 速い! 強化魔法がまだ残っているとはいえ、まさに風の如くエミリアはエメラルドユニコーンへと迫る。


 これなら追いつけるか!


 しかし俺の願いも虚しく、エメラルドユニコーンは光の速さでこの場から離脱するのであった。


―――――――――――――――


【読者の皆様へ】


4月19日【狙って追放~】が書籍化されました。

本屋で見かけることがありましたら、手にとって頂けると幸いです。

ネット投稿より、エミリアやルナが色々パワーアップしています。

カクヨム様のネット投稿も定期的に行いますので、今後とも何卒よろしくお願い致します。

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